高の原中央病院 薬剤科では毎月1回『DI(Drug Information)ニュース』を発行し、
お薬に関する情報を提供しております。ぜひご利用くださいますようご案内申しあげます。

2011年11月 『ステロイドホルモン剤と骨粗鬆症』

ステロイドホルモン剤は多くの診療科目で使用される薬剤で、その効能・効果も多岐に渡っています。しかし副作用も多く、いろいろな症状として現われます。

今回はステロイドホルモン剤の副作用の一つであり、発生頻度の高い骨粗鬆症との関係について記述します。

齢などによって骨密度が減少し骨量が減っていく骨粗鬆症を原発性骨粗鬆症と呼ぶのに対して、他の疾患やその疾患に用いられる薬剤(今回の場合はステロイドホルモン剤)が原因で骨量が減っていく骨粗鬆症を続発性骨粗鬆症と呼んでいます。

1996年の米国リウマチ学会の調査では、全米の骨粗鬆症患者2000万人のうち、約20%(約400万人)がステロイドホルモン剤によるものであり、ステロイドホルモン剤長期服用患者の約25%が骨折するという事実が判明しました。そのためステロイドホルモン剤による骨粗鬆症への対応の重要性が認識されました。このような背景のもと、わが国でも日本骨代謝学会の「ステロイド性骨粗鬆症診断基準検討小委員会」において、2004年に日本初の「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン」が策定されました。

投与経路としては内服が多いようで、内服のステロイドホルモン剤を大量又は通常量の範囲内ではあっても長期間服用し続けた場合にこの副作用が出やすくなります。

では何故ステロイドホルモン剤の服用で骨粗鬆症になるのでしょうか。理由は大きく分けると以下の3つになります。

  ①骨芽細胞の数の減少及び寿命の短縮
  ②破骨細胞の分化・活性化促進及び寿命の延長
  ③ホルモン及びカルシウム代謝異常による骨吸収の亢進

【図1 ステロイド性骨粗しょう症の発症機序 】

この3つの事柄が複合的に影響して骨粗鬆症は発症します。 下図は2004年に策定されたステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドラインをフローチャートにしたものです。

【図2 ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン】

テロイドホルモン剤を使用することにより現在治療中の疾患の改善は見られても、その副作用により骨折等で入院あるいは日常生活に支障をきたすといったケースが少なくありません。ステロイドホルモン剤を服用している方は用法・用量を守ることはもちろんのこと、このような副作用が発現する可能性があることを十分念頭において治療を受ける必要があります。

【参考文献】
 1)医療情報サービスMinds
 2)J Bone Miner Metab 23巻2号105-109項 2005年
 3)2006年 第7回博多リウマチセミナー(首藤 英俊 九州大学整形外科)

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2011年10月 『2型糖尿病治療薬「DPP-4阻害薬」と
  インスリン製剤, SU薬の併用投与に伴う低血糖症』

2011年9月にDPP-4阻害薬「シタグリプチン(商品名:ジャヌビア錠)」の添付文書が改訂され、2型糖尿病に対して、インスリン製剤との併用療法が追加承認されました。

その際『低血糖症』の発現率は、既に承認されているSU薬との併用に比べて、インスリン製剤と併用した方が、より高くなる傾向が見られました。

また海外臨床試験や国内外の市販後報告においても、重篤な低血糖症が報告されています。

DPP-4阻害薬とSU薬との併用に伴う低血糖症の発現リスクについては、既にSU薬の減量を含めた注意喚起が行われていますが、今後は新たにDPP-4阻害薬とインスリン製剤の併用に伴う、低血糖症の発現に対してもSU薬の場合と同様に、インスリン製剤の減量を含めた検討を行う必要があると考えられます。


*DPP-4阻害薬とSU薬の併用投与に伴う低血糖症の発現に関しては、市販後調査等で重篤な低血糖症を起こした複数の症例が報告されたことから、2010年4月に日本糖尿病学会‘インクレチンの適正使用に関する委員会’より ①「高齢者や軽度腎機能低下者へのSU薬使用を慎重に行うこと」や、②「DPP-4阻害薬を追加投与する場合SU薬の減量が望ましい」こと等が、推奨されている。


* 高齢者(65歳以上), 腎機能軽度低下者(Cr1.0mg/dl以上)の場合は, シタグリプチン追加の際にSU薬の減量を必須とする。 詳細は参考文献2)を参照のこと

【DPP-4阻害薬をSU薬などと併用した場合に
  低血糖症が起こりやすくなると考えられる理由】

DPP-4阻害薬はインクレチンの分解を抑制 ⇒ 血液中のインクレチン濃度を上昇 ⇒ Gタンパク質共役型受容体を刺激 ⇒ 膵臓β細胞内cAMP濃度を上昇させる一連の経路(インスリン分泌増幅経路)を通して、ブドウ糖代謝に依存したインスリン分泌を促進する。すなわちDPP-4阻害薬単独では、低濃度のブドウ糖存在下では惹起経路が活性化されていないので、インスリン分泌が促進されないことから、低血糖は起こりにくいと考えられる。しかしSU薬を併用すると、SU薬がATP感受性カリウムチャネルに作用 ⇒ 細胞内カルシウム濃度を上昇させる経路(惹起経路)を活性化するため、低濃度のブドウ糖存在下でもDPP-4阻害薬はインスリン分泌を促進するので、低血糖が助長されると考えられている。

*なお, 現在までのところインスリン製剤との併用時における, インスリン製剤の減量の目安等の指標は明らかにされていないことから, 今後の臨床データの集積が待たれるところである。

【参考文献】
1)独立行政法人医薬品医療機器総合機構:「ジャヌビア錠」審査報告書. 平成23年8月2日
2)日本糖尿病学会「インクレチンの適正使用に関する委員会」から (http://www.jds.or.jp/)
3)向 英理他: インクレチン関連薬と
  SU薬併用時における重症低血糖発症メカニズムとその対策. 日本臨床, 69 (5): 907-911, 2011
4)「ジャヌビア錠」 医療用医薬品添付文書. MDS株式会社, 2011年9月改訂


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2011年09月 『パーキンソン病治療薬の副作用について』

~ギャンブルがやめられないのは薬のせい!?~

2011年2月に、パーキンソン病治療薬である英グラクソ・スミスクライン製のリキップ(日本名ではレキップ)を服用したフランス人男性が、ギャンブルや男性との性交にはまったとして同社を訴える出来事がありました。そこでパーキンソン病治療薬において、病的賭博(個人的生活の崩壊等の社会的に不利な結果を招くにもかかわらず、持続的にギャンブルを繰り返す状態)の可能性のある薬を調べてみました。

【添付文書に病的賭博の記載がある抗パーキンソン病治療薬】

抗パーキンソン病治療薬と病的賭博の関連性について】

パーキンソン患者へのドパミン補充療法と関連して生じる行動障害は、ドパミン調節異常症候群(dopamine dysregulation syndrome 以下DDS)と呼ばれています。 今回取り上げた病的賭博や性欲亢進はDDS関連行動障害として知られています。
パーキンソン病患者の病的賭博の罹患率は3.4%、ドパミンアゴニスト服用者では7.2%に上ると言う海外の報告もあります。(1)

【抗パーキンソン病治療薬と病的賭博の作用機序】

中脳辺縁系ドパミン路シナプス後受容体の過剰刺激より、新奇探索行動(novelty seeking behavior)が触発され病的賭博に陥ると考えられています。(2)

【DDSの対処法】

一般的には、L-dopaやドパミンアゴニストを必要最低限まで減量します。DDSはL-dopa単独よりドパミンアゴニスト併用例、特にドパミンD3受容体への親和性の強いアゴニストで出現頻度が高いとされるのでドパミンアゴニストの減量、中止、変更が薦められます。(1)(3)

【参考文献】

(1)柏原健一,パーキンソン病と行動障害,
  Progress in Medicine Vol.28 No.10 2008.10 2382
(2)柏原健一, パーキンソン病における異常行動 パーキンソン病 認知と精神医学的側面 
  山本光利編著 中外医学社 東京pp94-103
(3)柏原健一,パーキンソンと病的賭博 パーキンソン病 報酬系 
  神経機能画像(山本光利編)、中外医学社 東京 pp90-97


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2011年08月 『透析患者で禁忌・減量すべき薬剤in 高の原中央病院』

障害時に薬が禁忌とされる理由の一つとして、薬の排泄が遅れて体内に蓄積するおそれがあるからで、特に腎排泄性の薬において危惧されます。 高い薬物血中濃度の持続は、重い副作用や中毒症状を引き起こしかねません。次に禁忌とされる理由として、腎臓に対する直接的な悪影響があげられます(腎毒性)。

例えば、抗炎症・解熱鎮痛薬(Nsaids)は、腎臓の血流量を減少させ腎障害を悪化させるおそれがある為、出来るだけ服用を控えるべきです。高齢者等の 腎機能が低下している人も慎重に用いなければなりません。しかし、腎障害といっても、障害の程度や治療状況、透析の有無等により 薬の使い方が違ってきます。


    (PDFファイル)
    クリックすると拡大
    してご覧になれます。

一般的には、腎臓の働き具合を示す検査値(クレアチニンクリアランス等)を目安に、減量もしくは使用間隔の延長、場合によっては使用を中止します。また、透析療法においては、透析により薬が除去されるか否かが問題です。容易に除去されるフェノバール等ならば、透析に先立ち追加服用が必要なことがありますし、逆に、除去されにくいシンメトレル等は、服用を避ける(禁忌)等の対応が求められます。

そこで今回は、「透析患者で禁忌もしくは減量すべき薬剤in 高の原中央病院」と銘打って、当院採用の薬品について一覧表の形式(PDFファイル)で記述したいと思います。

【参考文献】
・ハイリスク治療薬2009(じほう)堀内龍也、松山賢治、阿南節子監修 他
・HD患者に対する投薬ガイドライン (医)仁真会 白鷺病院ホームページ

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2011年07月 『せん妄の治療』

ん妄は一過性に出現する軽度の意識障害で、認知機能の低下、錯乱、幻覚、妄想、精神運動興奮、睡眠―覚醒リズムの障害などが同時に起こります。可逆性であり、数時間から数日という短期間に急激に発症します。その精神症状は多彩であり、特に夕方から夜間にかけて不穏となる場合が多いため、夜間せん妄とも呼ばれます。

せん妄の発生率は一般の入院患者では10~15%ですが、高齢者や手術後などのハイリスク患者では40~67%といわれ、入院患者の高齢化に伴い、今後一層増加することが予想されます。
原疾患の治療や環境の整備などの直接・誘発因子の改善を試みたあとで、薬物療法が考えられます。



性発症のせん妄に対しては、主にharoperidol、diazapamの静注を、見通しの立てられる数日のせん妄に対してはharoperidol、tiaprideを投与しますが、最近ではrisperidone、quetiapineなどの非定型抗精神薬が用いられるようになってます。

睡眠薬は原則使用されませんが、睡眠・覚醒リズムを是正する目的で短期間使用される場合もあります。ベンゾジアゼピン系睡眠導入剤の単独使用は控え、抗精神薬との併用での使用が望ましいです。

繰り返される高齢者のせん妄に対しては、四環系抗うつ薬であるmianserinを数ヶ月単位で使用する場合があります。(mianserinは当院不採用)

せん妄発症の直接因子のひとつに薬剤があり、高齢者への投与時に注意が必要で、主な原因薬剤を列記します。
・抗パーキンソン病薬・睡眠薬・抗不安薬・抗うつ薬(三環系)
・抗ヒスタミン薬(H2ブロッカー含む)
・副腎皮質ステロイド・降圧薬(中枢性降圧薬、β遮断薬)
・ジギタリス・抗不整脈(リドカイン、メキシレチン)
・気管支拡張薬(テオフィリン、アミノフィリン)

【参考文献】
・中村純;せん妄の診断・予防・治療
・川嵜弘詔;せん妄の診断・治療
・秋山雅弘;月間薬事2011.4(Vol53 No.4)19-23

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2011年06月 『アクトス錠の膀胱癌リスクについて』

ランス政府の医薬品規制当局は6月9日、武田薬品工業の糖尿病治療薬ピオグリタゾン塩酸塩(当院採用薬:アクトス錠15mg)を有効成分とする医薬品の新規患者への投与を禁止したと発表した。  武田薬品工業によると、フランスの規制当局が独自に行った疫学調査で、ピオグリタゾン投与群は非投与群に比べ膀胱癌リスクが有意に高いことが確認されたためとしている。

【今回の背景】

フランス当局が実施していたCNAMTS疫学研究の全体解析において、ピオグリタゾン塩酸塩を投与された患者(約16万人)で、非投与患者(約133万人)に比べて、膀胱癌の発症率が有意に高い結果が得られた(〔HR=1.22 (95%CI1.05‐1.43〕)ことに基づくものである。

〔CNAMTS試験の概要〕

フランス国内の保健データベース(SNIIRAM)内の約150万人の糖尿病患者(40~79歳)に関する2006年~2009年のデータを用いて、膀胱癌などの癌発症率を比較した疫学研究(後ろ向きコホート)。本疫学調査の結果、膀胱癌の発症率について、ピオグリダゾン投与群では膀胱癌の発症リスクが1.22倍となった他、投与期間が1年以上2年未満では1.34倍、2年以上では1.36倍、また積算投与量が多い28,000mg以上では、1.75倍に発症リスクが高まり用量依存性がみられた。また性差(男性のみ有意)がみられた。なお、他の癌については発症率の増加はみられなかった。

【今後の対応について】

ピオグリタゾン塩酸塩製剤の服用と膀胱癌発生について、これまでも厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)において注目し、評価を行ってきており、現時点においてピオグリタゾン塩酸塩製剤の服用を直ちに変更・中止すべきではないと考えられる。(医薬品医療機器総合機構の見解)
今回、フランス当局が発表したピオグリタゾン塩酸塩製剤の1.22倍の膀胱癌リスク増をどのように判断するかが今後の課題となるが、今回のデータが2006年から2009年の3年間の期間であるため、用量依存には触れているが、3年以上の長期服用した場合については触れておらず、今後の詳細情報について慎重に把握し対応していくことが必要と考えられる。

【参考文献】
武田薬品工業株式会社 http://www.takeda.co.jp/pdf/usr/default/press/actos01_44001_6.pdf
医薬品医療機器総合機構 http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201106_1.pdf
アポネットR研究会 http://www.watarase.ne.jp/aponet/blog/110611.html

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2011年05月 『胃癌領域における分子標的薬の利用』

腫瘍効果をもつ分子標的薬は、がん遺伝子、がん抑制遺伝子、細胞周期関連因子、増殖シグナル関連因子、浸潤関連因子、アポトーシス関連因子などを標的として開発され、正常な細胞や正常な組織と 癌細胞との分子生物学的な差を特異的に修飾することを目指してつくられているため、従来薬剤と比べて、より選択的かつ副作用の少ない治療が行われる可能性が期待されています。

HER2遺伝子(HER2/neu、c-erbB-2)はヒト上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)遺伝子と類似の構造を有する癌遺伝子として同定されました。HER2遺伝子のコードする産物(HER2蛋白)は細胞膜を貫通する受容体型糖タンパクで、チロシン残基のリン酸化により活性化され、p21/rasなどを経たシグナル伝達経路を介して細胞の増殖に関与しているとされています。


HER2蛋白に特異的に結合するモノクロナール抗体であるトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)は、HER2過剰発現が確認された乳癌における術後補助化学療法および転移性乳癌に用いられていますが、今春「HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌」に対する適応拡大が承認されました。その用法は「他の抗悪性腫瘍剤との併用」となっています。

有効性の根拠となった国際共同治験であるToGA試験は、日本人も含むHER2陽性の進行・再発胃癌患者を対象に、フッ化ピリミジン系抗癌剤(カペシタビン(商品名:ゼローダ)又は静注5-FU(商品名:5-FU)とシスプラチン(商品名:ランダ)を併用した標準治療群と、これにトラスツズマブを併用した群とに割りつけて比較したもので、適応拡大の根拠となったToGA試験の要点を紹介したいと思います。

全生存期間中央値は標準療法のみ群が11.1カ月だったのに対して、トラスツズマブを加えた群は13.8ヶ月で、ハザード比0.74(95%信頼区間0.60-0.91、p=0.0046)で統計学的に有意に延長していた。

特にIHC3+またはIHC2+/FISH+の強陽性の患者では2群間の差は大きく、それぞれ11.8ヶ月、16.0ヶ月で、ハザード比0.65(95%信頼区間0.51-0.83、p=0.036))だった。(図1)

HER2強陽性の患者は日本でも世界でも約2割である。

無増悪生存期間中央値は、標準療法のみ群が5.5カ月だったのに対して、トラスツズマブを加えた群は6.7カ月で、ハザード比0.71(95%信頼区間0.59-0.85、p=0.0002)で統計学的に有意に延長していた。

抗腫瘍効果は完全奏効(CR)が標準療法のみ群で2.4%、トラスツズマブを加えた群で5.4%、部分奏効(PR)が標準療法のみ群で32.1%、トラスツズマブを加えた群で41.8%で、奏効率は標準療法のみ群が34.5%、一方のトラスツズマブを加えた群は47.3%となった。

毒性については、血液学的、非血液学的毒性は、全グレード、グレード3/4の副作用とも両群で差はなかった。循環器系の副作用の頻度にも差がなかった。


(図1)HER2強陽性患者(IHC3+またはIHC2+/FISH+)における全生存期間  
(標準療法 XP:カペシタビン+シスプラチン  FP:5FU+シスプラチン)

【参考資料】
日経メディカルオンライン,www.thelancet.com Vol 376 Aug.28,2010、ハーセプチン適正使用ガイド
「薬学生・薬剤師のためのがんの薬物治療学」山田安彦、HER2検査ガイド第3版、HER2検査ガイド胃癌編
坂東英明「切除不能進行胃がんに対するtrastuzumabの有効性」月刊血液・腫瘍科61(5)586-592、2010
大津敦「ToGA試験」胃がんperspective 3(1):55-58,2010


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2011年04月 『C型慢性肝炎の治療ガイドライン 2011』

本では、厚生労働省治療標準化研究班による「C型慢性肝炎の治療ガイドライン 2011」が発表されています。初回投与の高ウイルス量症例では、ジェノタイプにかかわらず、ペグイントロン+レベトール併用療法が推奨されています。ただし、併用療法の治療期間はジェノタイプとウイルス量によって違いがあり、ジェノタイプ1かつ高ウイルス量は通常48~72週間、それ以外は通常24週間です。

プロテアーゼ阻害剤は、現在日本では肝炎治療では承認されていませんが、英国のNEJM誌2011年3月31日号に現在の標準治療が奏効しにくいジェノタイプ1のC型肝炎ウイルス(HCV)感染者に対して、新規HCVプロテアーゼ阻害薬のボセプレビル(Boceprevir)を標準治療に追加し、有効性と安全性を調べた2件のフェーズ3試験(SPRINT-2とRESPOND-2)の結果が、同時掲載されました。いずれの試験においても、ボセプレビルを追加した群の方が、標準治療のみの群に比べて、持続的ウイルス学的著効(sustained virological response:SVR)達成率が有意に高かったのです。

慢性HCV感染者に対する標準治療はペグインターフェロン(PEG-IFN)とリバビリンの併用となっていますが、HCVジェノタイプ1感染者の治療は難しく、SVR達成率は50%を下回ります。

ボセプレビルは経口投与可能な強力なHCVプロテアーゼ阻害薬です。耐性ウイルスの出現を最低限に抑えるために標準治療に追加する形で日本でも臨床開発が行われています。近々プロテアーゼ阻害剤が承認されることが予想されるため、使用可能後のガイドラインも発表されています。


ジェノタイプ1・高ウイルス量症例にリバビリン併用療法を行う場合は、より高い治療効果が得られるプロテアーゼ阻害剤の使用可能な時期を考慮し、また治療効果に寄与するホスト側の因子であるIL28Bの遺伝子およびウイルス側の因子である遺伝子変異(ISDR、Core領域aa70)などを参考にして、治療の開始を決定するのが望ましい。
Hb値を考慮しプロテアーゼ阻害剤を含む三者用療法を行うことが困難と予測される場合は、INF+レべトール併用療法を選択する。
ジェノタイプ1、2ともにうつ病・うつ状態などの副作用の出現が予測される症例に対しては、フェロン+レベトール併用療法を選択する。
   
【参考資料】
・厚生労働省治療標準化研究班による「C型慢性肝炎の治療ガイドライン 2011」
・日経メディカルオンライン
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2011年03月 『粉砕不可の薬剤について』

当院では粉砕を行っていない薬剤が数種類ありますが、今回、そのうちの1つであるタケプロンの粉砕を行っていない理由についてまとめました。
ず、タケプロンカプセルの剤形ですが「腸溶性顆粒を含む硬カプセル剤」とあります。
右図の通り主薬であるランソプラゾールを腸溶性皮膜でコーティングした顆粒がカプセル内に充填されています。

に、ランソプラゾールの水溶液中での安定性を下表に示しています。


酸性溶液中では安定性が悪くなり、pH1では30分で残存率が約1.7%にまで低下してしまいます。 ランソプラゾールは酸に対して極めて不安定であるため、顆粒に施されているコーティングが剥がれれば、胃内で速やかに失活してしまい効果が期待できません。

右図はタケプロンOD錠を様々な条件で粉砕した時に得られた顆粒を酸性溶液に一定時間浸し、顆粒中に残っているランソプラゾール量を測定することによって耐酸能を調べたものです。乳鉢を使って通常粉砕するようにすり潰すと、腸溶性被膜が剥がれ耐酸能はほとんど見られなくなります。また、粉砕器を用いて高速回転で粉砕を行ってもコーティングは剥がれてしまいます。

【その他当院で採用されている粉砕不可の薬剤】
*但し、粉砕できない理由は薬剤によって異なります。
アカルディカプセル、アザルフィジンEN、アスパラK錠、アリセプトD錠、エパデール、カバサール錠、
グラケーカプセル、クレストール、クレメジンカプセル、ザンタック、スローK、セルニルトン錠、
デパケン錠、デパケンR錠、トレドミン錠(入院7日まで可)、ネオーラルカプセル、パリエット、
ビ・シフロール、プロマックD、プロレナール、ベイスンOD錠、ヘプセラ(14日まで可) 、マーズレンES錠、
ヘモクロンカプセル 、ペルサンチンL、ペルマックス、ボナロン、マグミット錠、メスチノン(35日まで可)、
ラジレス、リウマトレックス、リルテック、ルナベル配合錠、レミッチ、ロイコボリン、ロカルトロールカプセル、抗癌剤、麻薬等

   
【参考資料】武田薬品工業株式会社HPより抜粋
ランソプラゾール口腔内崩壊錠の粉砕調剤の検討.日本病院薬剤師会雑誌 41: 303-306, 2005
   
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2011年02月 『アスピリンの抗血小板作用にロキソプロフェンNaが及ぼす影響とその回避方法』

用量アスピリンは、血小板シクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)を阻害して、TX(トロンボキサン)A2の合成を抑制し血小板凝集抑制作用を示しますが、ロキソプロフェンNaなどの非ステロイド性抗炎症薬もCOX-1を阻害し解熱・鎮痛・抗炎症作用を発揮します。イブプロフェンとの併用で、アスピリンの抗血小板作用が減弱することは添付文書にも記載されています。今回はイブプロフェンよりも処方が頻繁なロキソプロフェンNaについて報告があったので紹介します(一部抜粋)。

【 方法 】

10名の健常成人ボランティアを対象に下記の条件で薬剤を服用し、4日目の薬剤服用前に採血を行いPATI1)及び血中TXB2濃度2)を測定した。

【 結果 】

1)PATI(血小板凝集閾値濃度)
血小板凝集惹起剤であるコラーゲン10μg/mLにおける血小板の最大凝集率を100%とし、50%の凝集に相当するコラーゲン濃度。コラーゲンの4濃度における最大凝集率(%)を結んで得られたグレーディングラインから求めた。値が小さいほうが凝集しやすいことを示す。
2)血中TXB2濃度
血小板凝集作用のあるTXA2の安定した代謝産物の血中濃度。
値が大きいと凝集しやすいことを示す。
*:Tukey検定 p<0.01

【 考察 】
両剤同時服用(③)ではアスピリン単独服用(①)よりもPATIが低いことから、両剤が血小板COX-1を競合的に阻害していることが考えられ、その結果アスピリンの抗血小板作用は減弱していると考えられる。一方、アスピリンを先に服用し2時間後ロキソプロフェンNaを服用した場合(④)は①とほぼ同じ値が得られ、アスピリンが先に血小板COX-1に入り込めばロキソプロフェンNaの影響はほとんど受けないと考えられる。また、前日夕食後のロキソプロフェンNaが翌日朝食後のアスピリンに及ぼす影響は、ロキソプロフェンNaの血中濃度の推移からほとんどないと考えられると筆者らは考察している。
この文献で筆者らは、④の用法が、アスピリンの抗血小板作用にロキソプロフェンNaが影響しない回避方法であることを示しました。一方で、COX-2選択的阻害剤であるNSAIDsは、アスピリンとの同時服用でも相互作用はないとの報告もあります。④の用法は実際には複雑ですが、ロキソプロフェンNaの薬価や適応症の広さを考えると、本剤を選択する利点もあるかと思います。痛みがコントロールされている場合であれば、ロキソプロフェンNaを頓服でアスピリンと同時服用しないよう指導することも選択肢の一つになるかもしれません。    
参考文献:赤木祐貴 他;医療薬学37(2);69-77;2011
   
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2011年01月 『抜歯時のビスフォスフォネート(BP)製剤の休薬について』

2010年3月に出されたビスフォスフォネート関連顎骨壊死(BRONJ)の検討委員会によるポジションペーパーより、以下の内容について紹介します。

   
当院採用ビスフォスフォネート製剤
   注射薬:ゾメタ 内服薬:ボナロン・ダイドロネル

BP製剤は10年近くにわたり骨ヒドロキシアパタイトと結合した状態を保つ。ゾレドロン酸は単回注射後、腰椎の骨密度を1年間で2.7%、3年間で4.3%増大させる事が示されており、骨に沈着したBPの作用は長時間維持される。そのため侵襲的歯科治療の前にBP製剤を短期間中止してもBRONJの発生頻度を低下させる事を示す明らかなエビデンスは得られていない事に注意する必要がある。注射用BP製剤投与中の患者はほとんどが癌患者であり、骨関連事象の管理が必要であるので、BP製剤を中止できない事が多い。もし可能であれば2~3ヶ月中止する事が望ましい。

一方経口BP製剤投与については、2年から3年行うとBRONJの発生頻度の頻度が上昇するとの報告があるため、上記のような管理が望まれる。

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2010年12月 『経口補水療法』

今回はちょっとブレイクタイム
・・・当院自販機で“OS-1”を見られたことがありますか?これについてご紹介します。


OS-1は、WHO(世界保健機関)の提唱する経口補水療法Oral Rehydration Therapy(ORT)の考え方に基いた飲料です。

経口補水液(ORS)であるOS-1と一般的な3号維持輸液であるKN3号輸液の比較を示しますと、Na、Kなど電解質、糖質の量を比較してもほぼ同等であることがわかります。水・電解質の補給効果としてはほぼ同等の効果が様々な施設の臨床研究により示されています。経口補水療法は、点滴をするための薬品や医療器具、スペースなどが要らず、医療廃棄物も出ないため、コストが下がるという大きなメリットがあります。患者さんにとっても、コストのほか、肉体的な負担が少なく、医療機関に滞在する時間が短くてすむなどのメリットがあります

【脱水症】

誤嚥などの危険性のない患者においてはなるべく消化管を使う、という観点から考え軽度~中等度の脱水に対する水・電解質補給には経口補水液が使用され、重度の脱水や経口摂取不能時には輸液を選択することが薦められています。

経口補水療法の理論的根拠については、腸管の吸収部位の表面に水の吸収にかかわる共輸送体(黄色)というものがあり、Naとブドウ糖がある一定の比率で同時に存在するときに水分の吸収速度が大きくなることが確かめられているからです。しかも、この共輸送体は、コレラやロタウイルスなどによる激しい下痢のときでもその機能を維持しつづけることがわかっています。小腸でのNaと水分の吸収におけるブドウ糖(炭水化物)の至適濃度は、1.0~2.5%であると考えられています。

OS-1の主な成分の濃度は、ナトリウムが50mEq/L、カリウムが20mEq/L 、クロルが50mEq/L、炭水化物が2.5%です。ナトリウムについてスポーツドリンク9~23mEq/Lに対してOS-1が50mEq/Lと約2~5倍濃く、カリウムは、スポーツドリンク3~5mEq/Lに対してOS-1が20mEq/Lと4~7倍濃くなっています。一方、炭水化物はスポーツドリンクの6~10%に対して2.5%と約3~5分の一程度です。

OS-1は、感染性腸炎、感冒による下痢・嘔吐・発熱を伴う脱水状態、高齢者の経口摂取不足による脱水状態、過度の発汗による脱水状態等に適していると考えられます。

【周術期における経口補水療法の活用】

現在、世界各国では、術前絶飲食に関するガイドラインが作成され、残渣のない透明な飲料は、術前2~3間までは飲用可能とされています。しかし、本邦には、術前の絶飲食に関するガイドラインはなく、慣例的に、多くの施設においては、誤嚥性肺炎を恐れる為、手術前夜から絶飲食として、輸液で補水しているのが現状であります。2009年ESPENガイドラインでも術前夜からの絶飲食は、ほとんどの患者で不必要であると発表されました。
神奈川県立がんセンターのデータによると
実際、術前ORTを導入したことにより輸液投与の場合の問題点となる
 ①抜去・空気塞栓の危険
 ②患者の更衣・入浴などの行動制限
 ③患者の口渇・空腹・不安
 ④歩行移動時の看護師の労力
などが改善されたと報告があります。

つまり、輸液関連のインシデントが減少し、患者が、術前の「口渇感」「空腹感」「穿刺に伴う痛み」「行動の制約」から開放され、より快適な状態で手術に臨めることとなったのです。

また、腹腔鏡下胆嚢摘出術において、KN3BよりORSの方が排ガスまでの時間が短縮され、経口摂取が腸管の蠕動運動の促進に役立っているという報告もあります。

【薬剤の補水による洗い流し(hydration)】

抗がん剤であるシスプラインやヨード系造影剤等の腎機能障害を起こす可能性がある薬剤投与後に体内から洗い流す方法として、輸液療法の代わりにORTを行う施設が増えてきています。治療後に輸液療法を行わず、患者は自宅でORSを用いて補水を行う。これにより、患者はすぐに帰宅可能で病院のベッド稼働率も改善するのです。

【参考文献】
 神奈川県立保健福祉大学 谷口英喜: 経口補水療法ハンドブック
 第25回日本静脈経腸栄養学会<ランチョンセミナー>
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2010年11月 『副腎皮質ステロイド外用剤の薬効による強弱の分類』

腎皮質ステロイド外用剤にはそれぞれ薬効に強弱があり、疾患や症状・使用部位によって使い分けることが必要です。 また外用剤とはいえ、強力な薬効を持った薬剤を多量又は長期に渡り使用すると、副腎機能低下などの全身の副作用や、皮膚萎縮、口囲皮膚炎などの局所の副作用が問題となります。
今回は副腎皮質ステロイド外用剤を薬効による強弱別に分類してみました。


用剤においては皮膚局所感染、鼓膜に穿孔のある湿疹性外耳道炎、潰瘍、第2度深在性以上の熱傷・凍傷での使用は禁忌となっています。

 【参考文献】今日の治療薬 2010(南江堂)
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2010年10月 『P-糖蛋白質を介したクラリスロマイシンの相互作用』

~ジゴキシンとの併用は, ジゴキシン中毒のリスクになりうる~

クロライド系抗菌薬クラリスロマイシン(以下CAMと略)は, 薬物排泄に関わる輸送システムであるP-糖蛋白質(multidrug resistant transporter; MDR1)の働きを強力に阻害することで, 併用した薬物の血中濃度を上昇させることが知られています。 CAMとジゴキシンを併用すると, ジギタリス中毒のリスクにつながることがあるため, 注意が必要です。特に腎障害例での併用は厳重に注意してください。

【CAMとジゴキシンの相互作用】

① Gomesら2)は, マクロライド系抗菌薬のうち CAM(当院採用薬:クラリス○R錠)は, ジゴキシン中毒の最大のリスクになるが, それと比べてEM(当院採用薬:エリスロシン○Rドライシロップ)や AZM(当院採用薬:ジスロマック○R錠)のリスクはかなり低いと報告している。

② P.Zapaterら3)の報告では, 65歳以上の入院患者7名を対象に, CAMとジゴキシンの相互作用に関する前向き試験を行ったところ, クラリスロマイシン投与開始後4-7日目には血清ジゴキシン濃度は, 平均で約1.7倍(1.4~2.3倍)と有意に上昇し, ジゴキシンクリアランスは平均で約60%(0.65→0.39mL/min/kg)に低下した。急性腎不全に移行した1例に, 心電図上ジギタリス中毒が疑われた。
③ 平田氏ら4)の報告によると, ジゴキシン(0.375mg/週)服用中の末期腎不全患者6名に, 気管支炎の治療目的で CAM(200-400mg/日)が投与されたところ、血清ジゴキシン濃度は全例で1.8-4.0倍に上昇したとのことであった。うち2例はジギタリス中毒が疑われた。
④ レトロスペクティブなジゴキシン血中濃度上昇の報告によると, CAM併用により, 血清ジゴキシン濃度は多くの報告を平均すると約 3倍(1.8~6.4倍)に上昇するという1)。
【ジギタリス中毒のモニタリング】
モニタリングのポイントは, 副作用の初期段階である食欲不振・悪心・下痢などの消化器症状と, 白いものが黄色に見える・目がちらつくなどの視覚異常の早期発見に努める。
【CAMとジゴキシンの相互作用機序】 
P-糖蛋白質は, 腎・肝・小腸・血液脳関門などに存在する膜蛋白質で, ATPのエネルギーを利用して, 細胞毒性を有する化合物などを細胞外へ排出している。CAMとジゴキシンの相互作用機序には諸説があり, ①CAMが消化管上皮細胞あるいは胆管側膜におけるP-糖蛋白質を阻害する ②CAMがジゴキシンを不活化する腸内細菌を殺菌する ③近位尿細管における P-糖蛋白質の阻害, 等が考えられている。なおP-糖蛋白質と CYP3A4の基質は相同性があるとされているが, ジゴキシンはCYP3A4では認識されないと考えられている。
【相互作用の回避】
CAMとジゴキシンを併用する場合は, ジゴキシン投与量の減量も考慮し, 注意深く副作用の初期症状をモニターすると共に, ジゴキシンTDMを定期的に実施する必要があると考えられます。特に腎障害例への併用は厳重に注意し, 可能であれば避けたほうが良いと考えられます。
 【参考文献】
1)平田純生: クラリスリマイシンと P-糖蛋白基質. 薬局, 南山堂, 61 (8) : 98-107, 2010
2)Gomes T et al: Macrolide-induced digoxin toxicity: a population-based study. Clin Pharmacol Ther, 86 (4): 383-386, 2009
3)P.Zapater et al: A prospective study of the clarithromycin-digoxin interaction in elderly patients. Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 50: 601-606, 2002
4)Hirata S et al: Intraction between clarithromycin and digoxin in patients with end stage renal disease. Int J Clin Pharmacol Ther, 43 (1) :30-36, 2005
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2010年09月 『アシネトバクターについて』

剤耐性菌アシネトバクターの院内感染問題が最近、話題に上がっています。そこで今回アシネトバクターについて調べて見ました。また、高の原中央病院におけるアシネトバクターの抗生物質耐性比率についても調べてみました。

【アシネトバクターとは】

アシネトバクターは土壌や河川水などの自然環境中に生息する環境菌です。健康な人の皮膚にも見られることもありますが,通常は無害です。アシネトバクターには多くの種類があり、人の感染症例からはアシネトバクター・バウマニが最も多く検出されます。通常、感染症の流行は集中治療室の患者やその他の重症患者で起こり、医療機関の外で起こることは滅多にありません。多剤耐性アシネトバクターは、通常のアシネトバクター感染症の治療に使用する抗菌薬がほとんど効かなくなっている菌のことです。日本での定義は、カルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系の抗菌薬全てに耐性を示す株とされています。日本で検出される多剤耐性アシネトバクターは、その多くが海外から流入してきた菌株と考えられています。

アシネトバクターは、乾燥にも強く皮膚や環境中で数日間は生存可能です。乾燥した平面上で 黄色ブドウ球菌と同等あるいはより長期に生存することがあります。乾燥したろ紙上での観察によれば、生存期間は、大腸菌や緑膿菌が24時間以下、アシネトバクターが6日まで、黄色ブドウ球菌が7日でした。健康な人が、体力・免疫力の弱まった人へ病原体のアシネトバクターを運んでしまうことが心配されます。

【消毒】

アシネトバクターは、通常、70%エタノールや50%以上の濃度のイソプロピルアルコール等の中水準の消毒薬により死滅します。クロルヘキシジンにて汚染がみられたとの報告があり、低水準の消毒薬はあまり望ましくないと考えられています。

【感染】

主な感染経路は接触感染となります。呼吸器感染症をきたした場合は、そこから飛沫感染の形で伝播する可能性がありますが、空気感染することはありません。ただし、あるアシネトバクター感染症の集団発生では、加湿器がアシネトバクターで汚染されていたため加湿器から10メートル離れた場所の空気からもアシネトバクターが検出されました。医療の場で使われる機器の衛生管理は適切に行いましょう。

以下のグラフは、当院における過去3年間(2007/7/1~2010/6/30)のアシネトバクターの感受性試験のデーターです。


院における注射剤では、β―ラクタマーゼ阻害薬のS/APBC(スルバシリン:ユナシンSのGE)、セフェム系薬のCEZ(タイセゾリン:セファメジンのGE)、CMZ(セフルトール:セフメタゾンのGE)、CTM(セファピコール:パンスポリンのGE)、アミノグリコシド系薬のABK(ハベカシン)、リンコマイシン系薬のCLDM(ダラシン)、ホスホマイシンのFOM(ホスミシン) 経口薬ではペニシリン系薬のAMPZ(パセトシン:当院ではサワシリン)、セフェム系薬のCFDN(セフゾン)、マクロライド系薬のAZM(ジスロマック)、CAM(クラリス)、EM(エリスロシン)、ホスホマイシンのFOM(ホスミシン)

以上の12剤の抗生剤にてほぼ耐性が見られます。

ただ1つカルバペネム系薬のMEPM(メロペン)は耐性を示しておらず、また感受性率90%以上示す薬剤としてβ―ラクタマーゼ阻害薬のS/CPZ(バクフォーゼ:スルペラゾンのGE)、アミノグリコシド系薬のISP(エクサシン)、ニューキロノン系薬のCPFX(シプロキサン)、LVFX(クラビット)が、アシネトバクターに対して有効だと言えます。

 【参考文献】
 ・国立感染症研究所:http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
 ・横浜市衛生研究所:http://www.city.yokohama.jp/me/kenkou/eiken/
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2010年08月 『授乳婦への薬について』

母乳育児中に母親が薬剤を服用しなければならないことは、しばしばあります。母乳は栄養面だけでなく、感染防御や母子関係の面からも望ましいですが、添付文書上「授乳婦への注意事項」が記載されている薬剤は多く、情報の評価も難しいところです。

薬剤の母乳移行性に関与すると考えられる要因
・「分子量」が小さく水溶性の薬剤は,細孔を通過し母乳中に移行する
・「脂溶性」の薬剤は脂肪滴に溶け込み母乳中へ用意に移行する.
・「血漿蛋白との結合率」の高い薬剤は,移行に関与する遊離型の薬物が少なく,移行性が低い
・母体血漿のpHは約7.4で,成乳のpHは約6.8であるため,弱塩基性の薬剤は移行しやすい
授乳時期では,生後1~2ヶ月は肝臓や腎臓の働きが不十分で排泄能が低いため注意が必要である

授乳中に使用しても問題ないとされる薬剤の例を
以下の表にしました(当院採用の内服薬)
「ヒト母乳中へ移行しないことが報告されている薬剤」あるいは「ヒト母乳への移行に関する情報が報告されていない薬剤」であり、「添付文書の使用上の注意に授乳婦に関する注意事項の記載がない薬剤」である

 【参考文献】
 ・製剤添付文書
 ・妊娠と薬情報センター http://www.ncchd.go.jp/kusuri/index.html
 ・授乳婦と薬 東京都病院薬剤師会編集
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2010年07月 『子宮頸癌ワクチンについて』

2009年12月22日に子宮頸癌ワクチンのサーバリックス®が販売開始になり、当院でも採用されました。そこで今回は子宮頸癌ワクチンについてご紹介します。

宮頸癌の原因は、ほぼ100%がヒトパピローマウイルス(HPV)によるといわれています。多くの場合、性交渉によって感染すると考えられており、発癌性HPVはすべての女性の約80%が一生に一度は感染しているとの報告もあります。ほとんどの場合ではウィルスは体外に自然に排除されますが、排除されなかった場合、数年~数十年かけて癌化することもあります1)。

ワクチンを接種することであらかじめHPVウィルスに対する抗体をつくらせておくことができ、HPVウィルスが体に侵入してきた場合にいち早く反撃することが可能になりました。

【サーバリックスの接種方法】
  10歳以上の女性に0,1,6ヶ月後の3回接種
【サーバリックスの接種時に通常みられる副反応】
接種部分の発赤、腫脹、硬結
 一般に発赤、腫脹は3~4日で消失しますが、熱感、発赤の強いときには冷湿布をします。接種部分の硬結は次第に小さくなりますが、1ヶ月後でも残る場合があります。この場合は放置してもかまいません。
発熱  一般的な方法(冷却、解熱剤投与)で処置します。他の原因による発熱も考えられる点に留意してください。
接種後1週間は副反応の出現に注意し、気になる症状が現れた場合、速やかに医師に連絡してください。
    ワクチン接種不適当者 被接種者は次のいずれかに該当すると認められる場合には、接種を行ってはいけません。
    ⅰ)明らかな発熱を呈している者
    ⅱ)重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
    ⅲ)本剤の成分に対して過敏症を呈したことがある者
    ⅳ)上記に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者
参考
当院で採用されている他のワクチン類を表2)に簡単にまとめました 
 【参考文献】
 1)製剤添付文書、及び製剤情報 
 2)浦部晶夫,2010,「今日の治療薬」
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2010年06月 『子宮収縮剤について』

少し前のことになりますが、子宮収縮剤を用いた事件が世間を騒がせていました。そこで今回は子宮収縮剤についてまとめてみました。
子宮収縮剤はおおまかに下表1)のように2つに分類できます。



プロスタグランジン製剤は、子宮に対して律動的な収縮作用を示し、妊娠末期の分娩促進や、妊娠中期の治療的流産に用いられます。それに対し、麦角アルカロイド製剤は主として分娩後の子宮収縮の促進ならびに子宮出血の予防及び治療目的で使用されます。持続的な収縮作用を示すため分娩促進の目的では用いられません。
一方、上記系統薬剤以外で副作用として子宮収縮作用や流産が報告されているので妊産婦への使用の際に注意すべき薬剤を紹介します。下表2)のカフェルゴット以外は当院ですべて採用されています。



子宮が収縮する副作用は精神安定剤・下剤・偏頭痛薬に多くみられるのでご注意ください

【参考資料】
 図1)浦部晶夫,2010,「今日の治療薬」
 図2)山下晋,「妊婦・授乳婦への薬物投与時の注意」 一部改定

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2010年04月 『高の原中央病院採用の注射用抗菌薬 溶解液一覧』

当院で取り扱っている注射用抗菌薬の溶解液の適・不適について一覧表にまとめましたので、是非参考にして下さい。






【参考資料】抗菌薬の使い方(第一三共)、各薬品の添付文書

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2010年03月 『スタチンがひきおこすインスリン抵抗性をCa拮抗薬が抑制する』

脂質異常症治療薬スタチンの一部にインスリン抵抗性を惹起する作用があり、Ca拮抗薬の併用により、この作用を回避できる可能性が示唆された。昨年の日本循環器学会・学術集会のFeatured Researchセッションで、韓国・ガチョン大学ジル病院血管内科のKwang-Kon Koh氏が報告した。

【Koh氏らのこれまでの研究報告】

①シンバスタチンなどの脂溶性スタチンが、インスリン感受性改善作用をもつアディポネクチンの血中濃度とインスリン感受性指数QUICKI*を低下させる
②水溶性のプラバスタチンを投与すると、血中アディポネクチン濃度とインスリン感受性が上昇する

今回Koh氏らは、スタチン投与下の高血圧患者に使用すべき降圧薬を明らかにする目的で、次のような臨床研究を行った。

【試 験】

対象は軽症・中等症の高血圧患者42例。「スタチンがひきおこすインスリン抵抗性をCa拮抗薬が抑制するか否か」についての試験薬として、脂溶性スタチンのアトルバスタチン(20mg/日)、Ca拮抗薬アムロジピン(10mg/日)を用い、アトルバスタチン単独、アムロジピン単独、アトルバスタチン・アムロジピン併用による治療をそれぞれ2カ月間、交差法により実施した。ひとつの治療と次の治療の間には2カ月間のウォッシュアウト期間を設けた。なお、降圧薬としてアムロジピンを用いたのは、インスリン抵抗性改善作用が報告されているためである。

【結 果】
【血圧の変化】 【糖代謝指標の変化】
【血中インスリン濃度】 【血中アディポネクチン濃度
とインスリン感受性】
アムロジピン単独
アトルバスタチン単独 変化なし
アムロジピンと
アトルバスタチンの併用

【考 察】

Koh氏は以上の成績に基づき、高血圧患者にスタチンを使用する場合、脂溶性か水溶性かを考慮する必要があるとした。さらに、特に糖代謝異常が認められる患者に脂溶性スタチンを投与する際は、インスリン感受性改善作用をもつ薬剤を併用すべきであり、降圧効果を含めて考えると、アムロジピンのような代謝改善作用をもつCa拮抗薬の併用が望ましいとの見解を示した。

*QUICKI=1/[log(空腹時血中インスリン濃度)+log(空腹時血糖)]

【参考資料】日経メディカルオンライン学会ダイジェストより

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2010年02月 『デュロテップMTパッチの効能・効果追加に伴う管理体制について』

デュロテップMTパッチが癌性疼痛以外にも使用可能になりました。それに伴い、新たな管理体制が設定されましたのでご確認ください。

【効能・効果】

変更前:中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛
変更後:非オピオイド鎮痛剤及び弱オピオイド鎮痛剤で治療困難な下記疾患における鎮痛
  ・中等度から高度の伴う各種癌における鎮痛
  ・中等度から高度の慢性疼痛における鎮痛 【追加!】

【管理体制の概要】(詳細は下図)
① 慢性疼痛に対して本剤を処方する医師は、慢性疼痛治療および本剤の流通管理に関するトレーニング(e-learning)を必ず受講する。
② 医師は、確認テスト終了後メーカーより送信される「デュロテップパッチ処方時の確認書」に必要事項を記入し、下半分(患者様保管用)を患者様へ交付する。
③ 患者様は、本剤の処方箋とともに確認書(患者様保管用)を薬局へ持参し、デュロテップパッチの調剤を受ける。

【注意事項】
確認書の有効期限は1年です。
患者様ごとに発行してください。
患者様が確認書の持参を忘れた場合、処方意図が慢性疼痛であるか判断できない場合、薬剤師から医師へ問い合わせが必要となることがあります。

慢性疼痛でデュロテップMTパッチを使用の場合、入院・外来を問わず調剤の際に薬剤師が確認書を確認します。
効能・効果が追加されたことに伴い、持参薬でデュロテップMTパッチを持ち込まれる場合が増えるかも知れません。
デュロテップMTパッチは麻薬です。患者様が持参された場合は薬剤科までご連絡下さい。

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2010年01月 『輸液フィルターに注意を要する薬剤』

輸液フィルターに注意を要する代表的な薬剤について以下の表にまとめました。


【引用文献】
 注射薬配合変化Q&A じほう(H18.6.20発行)
 注射薬Q&A 注射・輸液の安全使用と事故防止対策 じほう(H16.3発行)
 注射剤配合変化データ検索2009
 要注意医薬品の安全使用手引き


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2009年12月 『抗血小板薬, 抗凝固薬の休薬は, 本当に必要か』

本は、世界有数の長寿国であるが高齢化の進行に伴い、脳梗塞や心筋梗塞に代表される血栓性の疾患が増加しており、それに伴い、抗血小板薬や抗凝固剤を継続的に服用される患者さまも増えています。現在、抗凝固剤であるワルファリンを内服する人は100万人、抗血小板薬アスピリンは約300万人に上るとも言われており、こうした患者さまにおいては、手術や抜歯などの観血的処置を行う際の休薬の可否または再開のタイミングが大きな問題となります。2008.10月号で抜歯に関してお伝えしましたが、今回、脳卒中治療ガイドライン2009において抗血小板薬と抗凝固剤の施術や手術前の休薬に関していくつか変更点がありましたので、以下に表として示します。

手術手技 バイアスピリン
(アスピリン)
プラビックス
(クロピドグレル)
パナルジン
(チクロピジン)
プレタール
(シロスタゾ-ル)
ワーファリン
(ワルファリンK)
小手術
(抜歯など)
継続 継続 継続 継続 継続
内視鏡検査
(生検含む)
3日前* 5日前* 5日前 2日前 3~5日前
大手術
(開腹手術)
7日前 14日前 14日前 3日前 3~5日前
*パナルジンとバイアスピリン併用の場合は7日間休薬

た、白内障手術に関しては、技術革新で、切開創はとても小さく出血リスクは低く、抗血栓薬を中止する必要はありません。緑内障や硝子体手術は大手術に準じて、休薬が必要とされています。休薬によっておこる血栓塞栓症の頻度は高くはないのですが、発症例は重篤な場合が少なくありません。それぞれの領域や臓器で出血リスクが異なるため、一概に上記の表が全て正しいとは言えませんが、ひとつの目安にはなります

参考:脳卒中治療ガイドライン2009
   日本消化器内視鏡学会による
     『内視鏡治療時の抗凝固薬,抗血小板薬使用に関する指針』
   日本循環器学会ほかによる
     『循環器疾患における抗凝固薬,抗血小板薬療法に関するガイドライン』

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2009年10月 『新型インフルエンザは「弱毒」ではありません』

型インフルエンザが「弱毒株」というのはウイルス学的に誤りです。「弱毒」や「強毒」というのは鳥インフルエンザに関してのウイルス学の用語です。鳥のインフルエンザの赤血球凝集素には、抗原亜型がH1からH16まであり、そのうち、H5とH7亜型の一部のウイルスで「強毒株」があります。しかし、ヒトのインフルエンザウイルスにはH1からH3までの3亜型が知られているだけで、ウイルス学的に「強毒株」とか「弱毒株」という区別はありません。わが国のマスメディアでは、臨床的に軽いという意味で「弱毒」と言う言葉を使っているようですが、その使い方自体が誤りであるだけでなく、重症度は以下に示すように少なくとも中等度であり、過去のアジアかぜや香港かぜと同じようなレベルの重症度であると考えなければなりません。

年8月以降、わが国でも各種の基礎疾患を有する感染例に死亡が見られ始め、若年層にも被害が出始めていますが、従来の季節性インフルエンザは高齢者を中心にして0.1%前後の致死率であるのに対し、今回の新型インフルエンザは本来健康な若年者を中心に発症し、WHOの発表では未だに1%近い致死率を示しています。メキシコや米国、最近では南米などでの被害が大きく、1%をはるかに超える致死率が報告されている国もあります。

回の新型インフルエンザによる死亡率には各国間で大きな差が見られます。わが国では患者数が増加しても致死率は極めて低いレベルにあります。ところが他の国々からは大きな数字が報告されています。被害の大きな国々では患者の多くが発症後1週間前後に初めて医療機関を受診しており、その前には治療を全く受けていないこと、重症例や死亡例の多くが発症後4~5日目に呼吸不全を呈していること、ウイルス性肺炎の重症化だけでなく細菌性肺炎の重症化も見られること、など診断と治療開始の遅れが見られます。一方、わが国では発症者の殆どが2~3日以内に受診しており、ほぼ全例で抗インフルエンザ薬による治療が行われています。


タミフルやリレンザ等の抗インフルエンザ薬で
早期から積極的に治療すべきです

2009年8月21日にWHOから新型インフルエンザの治療ガイドラインが発表されました。そこには、軽症の若年者や健常成人ではタミフルやリレンザの投与は必ずしも必要ではないと記載されています。先述の「弱毒」見解と相まってわが国でも「抗インフルエンザ薬の投与は必ずしも必要ではない」とする意見が散見されます。しかし、これは危険です。

回の新型インフルエンザによる海外の重症化例や死亡例の多くに基礎疾患のない若年者が多く含まれていますが、妊婦の例を含めて受診の遅れがあることに加え、肺炎合併の時点まではいずれも抗インフルエンザ薬の投与を受けておらず、これが重症化の最大要因と考えられます。一方、わが国の被害が少ないのは、患者の早期受診と早期治療開始によるものと考えられ、今後の蔓延期においても可能な限り全例に対する発病早期からの抗インフルエンザ薬による治療開始が最も重要であると言えます。また、タミフルに関しては、10歳代の患者の異常行動等に対する厚生労働省からの使用注意制限がまだ解除されていません。ただし、厚労省自身の見解として、副作用を説明し保護者が投与後最低2日間監視できるなら新型インフルエンザに対してタミフルを投与することは可能である、としています。わが国の最初の流行を経験した神戸においても10歳代の患者への投与が行われています。

た本年8月にWHOから発表された治療ガイドラインで最も重要な点は、タミフルの投与により、肺炎のリスクが有意に減少し、入院の必要性が減ると明確に述べられている事です。新型インフルエンザの大流行におけるノイラミニダーゼ阻害薬の役割は、季節性インフルエンザで周知のように発熱期間の短縮ではなく、重症化、入院、死亡を防止することにあり、治療の重要性は大きいのです。

(平成21年9月15日付 社団法人日本感染症学会提言より抜粋)
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2009年09月 『ポリ塩化ビニル製医療機器への吸着について添付文書に記載がある注射剤』

以前DIニュースにて、医薬品とポリカーボネ―ト製医療器材との相互作用、またPVC製医療機器の可塑剤(DFHP)溶出についてとりあげました。今回下記について追加で紹介します。


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2009年08月 『ワーファリンと抗生物質の相互作用』

ワーファリンと相互作用を引き起こす薬剤は多数ありますが、抗生物質もその1つです。

ワーファリンは、肝臓でビタミンK依存性凝固因子の第Ⅱ(プロトロンビン:PT)、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子の生合成を抑制することにより抗凝固作用、血栓形成予防作用を示します。多くの抗生物質には、ビタミンK(以下VK)を欠乏させる副作用があり、そのためにワーファリンの作用を増強させるケースが多いのですが、一部にはワーファリンの作用を減弱させる(機序不明)ものもあります。

以下にワーファリンと主な抗生物質との相互作用をまとめました。
抗生物質 相互作用の機序 作用の
増減
アミノグリコシド系 ①VK産生腸内細菌を抑制しVKを抑制 増強
②腸管からのVK吸収を阻害
クロラムフェニコール系 ①ワーファリンの代謝を阻害 増強
②肝臓でのPT合成を阻害
③VK産生腸内細菌を抑制しVKを抑制
④腸管からのVK吸収を阻害
セフェム系 ①VK産生腸内細菌を抑制しVKを抑制 増強
②肝細胞のVK依存性凝固因子の生成を阻害
③腸管からのVK吸収を阻害
テトラサイクリン系 ①VK産生腸内細菌を抑制しVKを抑制 増強
②肝細胞のVK依存性凝固因子の生成を阻害
③腸管からのVK吸収を阻害
④PTの活性作用の低下(PTの利用障害)
ペニシリン系 ①VK産生腸内細菌を抑制しVKを抑制 増強
②肝細胞のVK依存性凝固因子の生成を阻害
③腸管からのVK吸収を阻害
ただし、ジクロキサシリンのみ作用減弱(機序不明)
マクロライド系 ワーファリンの肝薬物代謝酵素(CYP3A)を阻害 増強
ただし、アジスロマイシン水和物・テリスロマイシンは機序不明
リンコマイシン系 機序不明 増強
ポリペプチド系 機序不明(塩酸バンコマイシン) 増強
ただし、テイコプラニンは作用減弱(機序不明)
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2009年06月 『高血圧治療ガイドライン2009』

「日本高血圧治療ガイドライン2009」より抜粋しました。

【主要降圧薬の積極的な適応と禁忌】
  製品名 禁忌 慎重使用例
Ca拮抗薬 脳血管障害慢性期・左室肥大・頻脈
狭心症・高齢者
徐脈
(非DHP系)
心不全
ARB
ACE阻害薬
脳血管障害慢性期・左室肥大・心不全・心房細動(予防)・心筋梗塞後・蛋白尿・腎不全・糖尿病・メタボリックシンドローム・高齢者 妊娠
高K血症
腎動脈狭窄症
利尿薬 脳血管障害慢性期・心不全・腎不全・高齢者 痛風
低K血症
妊娠
耐糖能異常
β遮断薬 心不全・頻脈・狭心症・心筋梗塞後 喘息
高度徐脈
耐糖能異常
閉塞性肺疾患
末梢動脈疾患

【併用療法】

降圧目標を達成するためには、多くの場合2,3剤の併用が必要となる。そのさい、少量利尿剤を積極的に併用すべきである。

【脳血管障害を合併する高血圧の治療】
(超)急性期 ニカルジピン、ジルチアゼム、ニトログリセリンやニトロプルシドの微量点滴静注
慢性期 Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARB、利尿薬など
【心疾患を合併する高血圧の治療】
狭心症 ・冠攣宿 ・・・ 長時間作用型Ca拮抗薬
・器質的冠動脈狭窄 ・・・ β遮断薬、長時間作用型Ca拮抗薬
・降圧が不十分な場合 ・・・ ACE阻害薬、ARBの追加
心筋梗塞後 ・第一選択薬 ・・・ ACE阻害薬、ARB、β遮断薬
・降圧が不十分な場合 ・・・ 長時間作用型Ca拮抗薬、利尿薬の追加
・低心機能症例 ・・・ アルドステロン拮抗薬の追加
心不全 ・標準的治療 ・・・ ACE阻害薬、ARB+β遮断薬+利尿薬
・重症例 ・・・ アルドステロン拮抗薬の追加
・降圧が不十分な場合 ・・・ 長時間作用型Ca拮抗薬の追加
心肥大 ・第一選択薬 ・・・ ACE阻害薬、ARB、長時間作用型Ca拮抗薬
心房細動(予防) ・予防の観点から ・・・ ACE阻害薬、ARB
・慢性心房細動患者 ・・・ β遮断薬やシヒドロピリジン系Ca拮抗薬
【慢性腎臓病(CKD)を合併する高血圧の治療】

 ・ACE阻害薬、ARB
 ・降圧不十分ならCa拮抗薬・利尿薬の併用あり

【糖尿病を合併する高血圧の治療】

 ・ACE阻害薬、ARB
 ・降圧不十分ならCa拮抗薬・利尿薬の併用あり

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2009年04月 『ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体アクテムラ®』

【特徴】

国産で世界初のヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体製剤

【薬理作用】

IL-6レセプターには、細胞膜上に結合した状態のレセプター(膜結合性レセプター)と血清中に浮遊しているレセプター(可溶性レセプター)の2種類があります。通常、これらのレセプターは、血清中のIL-6と結合した後に、細胞膜上のgp130というタンパク質と結合して、IL-6とIL-6レセプターとgp130の3者が結合した状態でIL-6の生理作用を発現します。

アクテムラは膜結合性及び可溶性のIL-6レセプターと結合し、これらのレセプターとIL-6の結合を阻害することによって、IL-6の生理作用を阻害します。

【IL-6の生理作用】

サイトカインとは、様々な細胞から産生される細胞間の情報伝達物質の一種です。関節リウマチ患者さんの体内では種々のサイトカインの産生が増進しており、これらが関節リウマチの病態形成に深く関与していることが知られています。

IL-6は、関節リウマチの関節破壊の原因である破骨細胞の活性化、マトリックス分解酵素の産生増進、滑膜を増殖させるために必要な血管を作るサイトカインの産生増進などに作用します。また、CRPやフィブリノーゲンの産生とESR値の亢進、低アルブミン血症の発現、炎症性貧血の発現や発熱・倦怠感の出現などに深く関与していることが知られています。近年の研究では他のサイトカインと連携して総合的に関節リウマチの病態発現に関与していることも明らかとなっています。

【ヒト化抗体について】

人の体内の物質に対する単一の抗体のうち、遺伝子組み換えにより、抗原が結合する可変領域の中でも抗原認識に最も重要な相補性決定領域(CDR;Complementry Determining Region)のみをマウス由来にし、それ以外はヒトIgGからなる抗体をヒト化抗体と言います。全体の90%以上がヒト抗体の成分であり、免疫原性はキメラ抗体よりも少なくなっています。

なお、可変領域はマウス抗体のままとし、それ以外の定常領域を遺伝子組み換えによってヒトIgGの定常領域に置き換えたものをキメラ抗体と呼び、全体の60~90%がヒト抗体の成分です。そして、100%ヒト由来の抗体を完全ヒト型抗体と呼びます。しかし、完全ヒト型抗体であっても、実際にヒトに投与すると中和抗体の発現が認められることもあります。

【副作用】

●重大な副作用
 ・アナフィラキシーショック (頻度不明)
 ・アナフィラキシー様症状 (0.4%)
 ・感染症 :肺炎(7.8%)、帯状疱疹(6.4%)、感染性胃腸炎(3.4%)、蜂巣炎(3.3%)、感染性関節炎(0.9%)、敗血症(0.4%)、まれに非結核性抗酸菌症(0.4%)、結核(0.3%)、ニューモシスチス肺炎(0.1%)等の日和見感染を含む重篤な感染症があらわれ、致命的な経過をたどることがある。
 ・間質性肺炎 (頻度不明)
 ・腸管穿孔 (頻度不明)
 ・好中球数減少 (7.0%)  ・心不全 (頻度不明))
 *2008年4月16日~2009年3月15日に関節リウマチで収集された死亡症例28例のうち、厚生労働省への報告対象症例(関連性が不明、調査中の症例を含む)は15例であり、本剤との因果関係が否定された死亡症例は13例でした。死亡症例の多くは病状が長期に亘り、合併疾患を有し、全身状態が不良な症例でした。
 ☆詳細につきましては薬剤科医薬情報管理室までお問い合わせください。

●その他の副作用

キャッスルマン病の承認時までの調査35例、関節リウマチ、多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎、全身型若年性特発性関節炎の効能追加時までの調査各々601例、19例、128例、計783例において副作用は751例(95.9%)に認められています。主な副作用は、鼻咽頭炎421件(53.8%)、コレステロール増加292件(37.3%)、LDL増加148件(18.9%)、トリグリセリド増加126件(16.1%)、ALT(GPT)上昇119件(15.2%)等です。

※783例の内訳:キャッスルマン病:35例、関節リウマチ:601例、
 多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎:19例、
 全身型若年性特発性関節炎:128例

【生物学的製剤比較表】
【レミケード】 製品名 【アクテムラ】
インフリキシマブ 一般名 トシリズマブ
キメラ型抗TNFαモノクローナル抗体 分子構造 ヒト化抗IL-6受容体モノクローナル抗体
可溶性TNFαへの結合・中和
受容体に結合したTNFαの解離
TNFα産生細胞の障害
作用機序 可溶性及び膜結合性IL-6レセプターに
結合し、IL-6の生物活性を抑制
TNFα 標的 IL-6
250mLに溶解して点滴静注
2時間
投与経路 100-250mLに溶解して点滴静注
1時間
3mg/kg 用量 8mg/kg
初回、2週、6週、以後8週間隔 用法 4週間隔
必須 MTX併用 併用可
クローン病
ベーチェット病による
 難治性網膜ぶどう膜炎
RA以外の
適応症
キャッスルマン病
若年性特発性関節炎
(参考:製剤添付文書
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2009年02月 『日本版ビアーズ基準』

国には、高齢者の薬剤処方の在り方に一定の方向性を示す基準「Beers Criteria」というものがあります。Mark Beers博士が中心となって1991年に初めて発表されました。内容は、「高齢者に不適切な医薬品」のリストがまとめられており、そのリストアップにはデルファイ法によるコンセンサスとリッカートスケール法と呼ばれる点数評価を用いた独創的な方法がとられました。このような背景の下、国立保健医療科学院の今井博久疫学部長ら研究チームは、日本の医療制度や事情に合わせた「日本版ビアーズ基準」というものを昨年4月に発表されましたので、ここに紹介します。その内容や方法論の是非はともかく、当ニュースで日本版ビアーズ基準の一部を紹介するにあたって注意点を一つ述べておきたいと思います。それは、当該基準には法的拘束力は無く、掲載された医薬品は使用禁止というものでも無いという事です。

高齢者

65歳以上の方。多種類の薬剤を服用される事が多く、肝・腎機能も低下している事の多い高齢者は、潜在的にも薬剤による不利益(有害事象)を被り易いと言えます。

選定基準と薬剤リストの一部

(1) 高齢者において疾患・病態によらず一般に使用を避ける事が望ましい薬剤/薬剤クラス(約70種類の薬剤)

薬剤(代表的な商品名) 問題点
フルラゼパム(インスミン・ベノジール・ダルメート)
フルニトラゼパム(サイレース・ロヒプノール)
長時間にわたり鎮静作用を示す為、転倒・骨折の頻度が高くなる。中~短期作用型ベンゾジアゼピン(BZ)系薬が望ましい
一日あたり用量が以下に示す値を超える場合
ロラゼパム(ワイパックス)3mg、
アルプラゾラム(コンスタン・ソラナックス) 2mg、
トリアゾラム(ハルシオン)0.25mg、エチゾラム(デパス)3mg
一日あたり用量が一定量を越えない事が望ましく、BZ系薬に対する感受性が高くなっているので低用量でも有効性が得られる
インドメタシン(インダシン・インテバン) Nsaidの中でCNS副作用が最も多い
ペンタゾシン(ソセゴン・ペンタジン) 他の同種薬剤に比して錯乱・幻覚等のCNS副作用の頻度が高い
アミトリプチリン(トリプタノール) 抗コリン・鎮静作用が強い
ジソピラミド(リスモダン・ノルペース) 他の抗不整脈薬の中で最も強力な陰性変力作用を有するため、心不全を誘発するおそれがある。抗コリン作用も強い
ニフェジピン短期作用型 低血圧・便秘を引き起し易い
シメチジン(タガメット) 錯乱等CNS副作用を引き起こすおそれがある
H2ブロッカー せん妄をきたすおそれがある
スルピリド(ドグマチ-ル) 錐体外路症状をきたすおそれあり。軽症うつ病に対しては、より安全な代替薬の使用が望ましい
チクロピジン(パナルジン) アスピリンと同程度の抗凝血作用だが、毒性ははるかに高いと考えられるのでより安全な代替薬を使用するのが望ましい
(2) 高齢者において特定の疾患・病態がある場合に使用を避ける事が望ましい薬剤/薬剤クラス(25種類の病気別に)
疾患・病態 薬剤(代表的な商品名) 問題点
糖尿病 クエチアピン(セロクエル) 血糖上昇作用を持つため
認知障害 バルビツール酸系薬、抗コリン薬、鎮痙薬、筋弛緩薬、CNS刺激薬 CNS変調作用のため
認知症 BZ系薬 認知機能を低下させる
うつ病 BZ系薬の長期使用、交感神経遮断薬[メチルドパ・レセルピン] うつ病を引き起す、又はうつ病を悪化させるおそれがある
心不全 ジソピラミド(リスモダン・ノルペース)、高Na含有薬 陰性変力作用・体液貯留・心不全の悪化のおそれ
不整脈 三環系抗うつ薬 不整脈誘発作用やQT間隔の変化を引き起す
COPD 長期作用型BZ系薬[クロルジアゼポキシド・ジアゼパム・クアゼパム・クロラゼプ酸]、β-ブロッカー[プロプラノロール] CNS副作用を生じ、呼吸抑制を起こす、又は悪化させるおそれがある
(参考:国立保健医療科学院  疫学部 薬事新報No.2654(2009)今井博久「薬剤師に活用してほしい日本版ビアーズ基準について」
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2009年01月 『当院採用のインスリン製剤の比較』

作用動態(イメージ)と作用発現時間と持続時間 混合比率
(%)
注射の
タイミング
インスリンアナログ 超速効型 <特徴>
製剤中でリスプロは六量体で存在しているが、皮下投与後速やかに単量体へ解離し、血管内への移行が速くなり、食直前投与が可能になった。
インスリン
リスプロ
100%
食事の
直前
ヒト型インスリン 速効型 速効型
インスリン
100%
食事
30分前
混合型 速効型
30%
中間型
70%
食事
30分前
中間型 中間型
100%
食事
30分前
インスリン グラルギン 持効型 <特徴>
皮下投与後に生理的pHで等電点沈殿を起こし、徐々に溶解、吸収される。血糖降下作用のプロファイルは、明らかなピークを示さない。生理的な基礎インスリン分泌パターンを再現する。
持効型
インスリン
100%
朝食前
または
就寝前
(一定
時間に)
<各製剤添付文書、及び各社製剤情報より抜粋>
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2008年12月 『ドライパウダー吸入薬アドエア®』

2007年4月に本邦初で承認を受けた、抗炎症薬である吸入ステロイド薬と気管支拡張作用を有する長時間作用性β2刺激薬の配合剤である。

続性喘息患者の長期管理薬の第一選択薬として、優れた抗炎症作用を有する吸入ステロイド薬の重要性が広く認知されている。また、重症度が軽症持続型以上で、治療不十分な症例には吸入ステロイド薬に加えてほかの治療薬の併用が推奨されている。その併用薬として最も望ましい相手の1つと目されているのが、気管支拡張作用を有する長時間作用性β2刺激薬である。アドエア®に配合されている吸入ステロイド薬(フルタイド®)と長時間作用性β2刺激薬(セレベント®)の両薬剤は各々単剤でも優れた薬理作用を有するが、併用薬としてもそれぞれを相補する作用や相乗作用を有していることが特徴である。

薬理作用

≪吸入ステロイド薬≫
吸入されたステロイドは下気道の粘膜に付着後、炎症細胞の産生や気道の浸潤に関するサイトカ イン、ケモカイン、増殖因子の発現を抑制したり、浸潤した炎症細胞のアポトーシスを惹起したりして強力な抗炎症作用を示す。そのほかβ2受容体の過発現に関与し、また、β2刺激薬投与によるβ2受容体の脱感作およびその作用の減弱をステロイドが抑制されていることが知られている。
≪長時間作用性β2刺激薬≫
ステロイドにはない気道平滑筋収縮に対する拮抗作用をはじめ、知覚神経の興奮抑制、微小血管透過性の抑制、マスト細胞の膜安定化などがあり、喘息の治療においてステロイドの抗炎症作用を補完している。

有効性
吸入ステロイド薬低用量単剤ではコントロール不良だった喘息症例を対象にして行った検討では、ステロイド用量を増加した群に比して、ステロイド投与量は変えずに長時間作用性β2刺激薬を併用した群の方が優位に呼吸機能や症状の改善を認めた。吸入ステロイド薬への併用薬としてはβ2刺激薬のほかにロイコトリエン受容体拮抗薬や徐放性テオフィリン製剤があるが、効果はβ2刺激薬が優れているとされ、なかでも呼吸機能の改善度に関しては最も優れている薬剤と位置づけされている。
副作用
配合剤であるがゆえに、各々の副作用を併せもっている。以下は代表的のもの。
1.嗄声 … 吸入手技の未習熟や吸入速度の不足により、ステロイドが咽・喉頭に付着するため
2.口腔・咽頭カンジダ症 … ステロイドには易感染性があるため、含嗽の励行を要する
3.胃腸障害 … 内服薬における頻度と比べるとかなり低い
※ 高用量を長期間使用する患者では副腎機能障害や低K血症を呈することがあり、早期発見のため定期的に血液検査を施行する。
注意・留意点
アドエアはβ2刺激薬50μgに対してステロイドの用量が100、250、500μgでフルタイド®の100、200μgと若干異なっている。切り替えの際には、喘息のコントロールにもよるが、元のフルタイド®の用量よりもやや多めに設定することが推奨されている。
エアロゾルからの切り替えでは十分な吸入速度が得られない患者も存在するため、吸入手技の指導が重要である。
短時間作用性β2刺激薬とは異なり、生じてしまった発作を軽減する薬剤ではない。長時間作用性β2刺激薬と同様に不整脈や心停止を惹起する恐れがあり、治療薬の意味付け、長期管理薬、レスキュードラッグでない、旨を指導する必要がある。
<引用文献> 日本病院薬剤師会雑誌 第44巻5号 2008年 P.813~817
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2008年11月 『タミフルの耐性について』

が国では2001年にインフルエンザ治療薬としてタミフルが販売認可を受けて以来、タミフルの臨床での使用量は全世界の生産量の70%以上を占め、世界第一位の使用量となっている。使用量の増加に伴い耐性株の出現が懸念される中、わが国ではWHOと協力して2003年4月インフルエンザシーズンから耐性株サーベイランスを行ってきた。この結果、2003年4月~2006年7月インフルエンザシーズンまでの国内(および海外)の耐性株の発生頻度は1%以下であり低頻度であると考えられてきた。

ころが、2007年11月以降から、A/H1N1ウイルスNA蛋白質にH275Y耐性マーカーを持つタミフル耐性株が、ノルウエーの67%を筆頭にEU諸国全体でも20%以上の頻度で検出されるようになった。これらの耐性株はタミフルを服用していない患者から分離されており、自然発生的な耐性変異株と考えられる。これまで、タミフル耐性株はヒトからヒトへの感染効率が低いといわれてきたが、現在EU諸国で流行している耐性株は通常の市中流行株と同様の感染効率を持つことが分かっている。複数の国にまたがって、これほど高頻度にタミフル耐性株が分離された例はこれまでになく、タミフル耐性株の世界的な拡大が懸念されている。

が国は、世界一のタミフル使用国であることから、世界中がわが国の耐性株の発生動向について注目している。また国内の耐性株発生状況によっては、タミフルを処方する治療方針の見直しなどの検討も必要となることから国立感染症研究所(感染研)では2008年以降に検体採取されたA/H1N1インフルエンザウイルス分離株を中心に、H275Y耐性マーカーをもつタミフル耐性株の緊急サーベイランスを実施した。2008年4月1日までに感染研が受領したデータを集計した中間報告では総解析数1,360株中22株の耐性株が同定され、国内の耐性株の発生頻度は1.6%であった。発生頻度を年別に見ると、2007年は277株中1株(0.4%)、2008年は1,083株中21株(1.9%)で、2008年に入ってからの頻度が高い。しかし、これらの発生頻度は欧米や香港などの諸外国に比べて著しく低く、これまでの国内での頻度と比べても特別に高いとはいえなかった。一方、地域別では、本州を中心に全国的に耐性株が散見され、横浜市、鳥取県、栃木県、岐阜市で複数の耐性株が同定された。

2008年10月におこなわれた第56回日本ウイルス学会学術集会での感染研の発表では2007年11月~2008年7月までに分離されたA/H1N1の1714株を解析し、全体では44/1714 (2.6%)の耐性株が分離され、鳥取県では22/68(32%)と高頻度だった。日本ではEU諸国のような深刻な状況には至っていないが、今後も継続した監視が必要である。

<引用文献> 国立感染症研究症IASRより一部改変
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2008年10月 『抜歯時の抗血栓療法』
       ~抗血小板薬, 抗凝固薬の休薬は, 本当に必要か~

抜歯時や歯周手術時に, 抗血小板薬(アスピリン等)や抗凝固薬(ワルファリン)による抗血栓療法を中断すると, 頻度は低いものの血栓塞栓症の再発リスクが大きくなることが指摘されています。最近の研究で, ほとんどの抜歯例では, 医師と歯科医の連携のもとに, 抗血栓療法継続下の抜歯が可能であること, 適切な局所止血処置が重要であること, 等が次第に明らかとなってきました。

【抗血栓療法継続下の抜歯-その根拠】

抜歯時の休薬にともなう血栓塞栓症の頻度は1~4.2%程度と高くはないものの, 発症例は重篤な場合が少なくないことから, 欧米では抜歯に際しては基本的に休薬してはならないとする考え方が主流になっているという。例えば, Aframianらによるメタ解析によると, ワルファリン服用例でINRが治療域にあれば, 1本の単純抜歯では休薬してはならないこと, トラネキサム酸液による洗口が有効であること, 歯科処置のために低用量アスピリン(100mg/日以下)を中止してはならないことが, ハイレベルのエビデンスで示されている。

【日本国内での抜歯の検討例】

Morimoto Y et al: J Oral Maxillofac Surg 66: 51-57, 2008より

①森本氏らは[表1]に示すように, 血栓療法中の270例において計306回の抜歯を行ったところ, 後出血は11回(3.6%)みられたこと, 後出血の出現頻度は[ワルファリン単独群(表中A)]と[ワルファリン+抗血小板薬併用群(表中B)]との間に有意差はみられなかったこと, INR値よりむしろ抜歯部位の歯槽膿瘍や歯肉膿瘍などの活動性炎症が影響すると考えられること等報告している。局所止血処置は全例に酸化セルロース綿を入れて縫合し, ガーゼで圧迫する方法を施し, 必要であれば電気メスによる凝固止血や止血シーネで対処されている。日本人のワルファリン服用例(INR3.0未満), 抗血小板薬服用例では, 維持量を継続して抜歯を行っても止血はほぼ可能であると述べている。

②慶応大学病院歯科口腔外科の矢郷氏らの調査では, ワルファリン単独58例, 抗血小板薬単独27例, 両者併用23例で抜歯を行ったところ, 後出血が見られたのはワルファリン服用の2例のみで, 止血シーネで容易に止血できたという。止血処置は, ワルファリン服用例では[ゼラチンスポンジ+縫合+圧迫]を, 抗血小板薬の場合は[縫合+圧迫止血]を組み合わせている。INR 1.6~2.8の治療域の範囲では確実な止血処置を行えば, 抜歯時の止血に問題はなかったとしている。

【今後の取り組み】

すでに循環器学会のガイドライン(2004年)では, 抜歯時の抗血栓療法継続の必要性が記載されています。今後, 医師と歯科医の共通のガイドラインが作成され, 医師と歯科医の連携がさらに強化されることで, 安全な抗血栓療法継続下の抜歯が, 広く普及されることが期待されます。

<参考文献> 矢郷 香, 森本佳成, 矢坂正弘: 抜歯, 歯周手術時の抗血栓療法.
Medical Tribune 2008年3月6日号: 74-75. [提供 エーザイ(株)/バイエル薬品(株)]
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2008年9月 『チャンピックス(バレニクリン酒石酸塩)』

新しい作用機序に基づく、日本で始めてのニコチンを含まない経口禁煙補助剤

バコを吸うことで、タバコの中のニコチンが脳の神経細胞にあるニコチン受容体に結合します。そのことで神経細胞の端末よりドパミンが放出され満足感などの快感が得られます。

ャンピックスはニコチン受容体の部分作動薬であり、2つの作用が禁煙効果を高めます。

チャンピックスを内服することで、タバコを吸ってもニコチンが脳の神経細胞にあるニコチン受容体に結合するのを妨げ、喫煙による満足感を抑制します(拮抗作用)。
⇒禁煙中にタバコを吸ってしまっても美味くない

チャンピックスがニコチン受容体に結合することで少量のドパミンが放出され、禁煙に伴う離脱症状やタバコに対する切望感が軽減します(作動薬作用)。
⇒禁煙のイライラが減る

コチネルは適量のニコチンを補うことでニコチン切れによる離脱症状をやわらげるお薬です。タバコの代わりにニコチン血中濃度を上げ、徐々にニコチン濃度を低くすることにより禁煙します。禁煙中にタバコを吸ってしまうとニコチンの過剰投与と同じ状況に陥るため危険なことや、喫煙による満足感が復活してしまいます。

【服用法】

1週目:禁煙開始日の1週間前よりチャンピックスを内服開始します。
  1日目~3日目  チャンピックス0.5mg 1日1回
  4日目~7日目  チャンピックス0.5mg 1日2回、朝夕食後
2週目:8日目に禁煙を開始します。チャンピックス1mg 1日2回、朝夕食後
 12週目までこれを継続して内服します。禁煙に成功した場合、禁煙を確実にするため、24週まで延長することができます。   新薬のため2009年4月までは4週間処方ができず、通常の5回受診ではなく7回の受診が必要となります。
(参考/ニコチネル:薬剤処方期間 8週間分  通院回数 約5回)

【副作用】主に、吐き気(28.5%)、頭痛、便秘

(吐き気は、飲み始め1~2週間のみで自然に消失することが多い。ひどければ吐き気止めを内服。服用法が食後となっているのは副作用の吐き気の発現を抑えるためで、薬物動態に対する食事の影響はない。ニコチンパッチやニコチンガムとの併用は、吐き気等の副作用が多く認められたとの報告あるため避けること。)

【使用上の注意】

うつ病や統合失調症など精神疾患のある方には十分観察して投与すること。(参考/ニコチネルは虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)の方にはX)

    院の禁煙外来のように時間をかけて問診や説明を行い禁煙成功率の高い状況であれば、費用も高い
    チャンピックスは必要ないのかもしれませんが、過去にニコチネルで禁煙に失敗している方や肌のかぶれ
    などでニコチネルを継続できなかった方は、チャンピックスとい選択肢もあるのではないでしょうか。
参考:http://www.pfizer.co.jp/pfizer/index.html
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2008年8月 『注射用フサン(メシル酸ナファモスタット)の配合変化について』

【概要】

注射用フサン(メシル酸ナファモスタット)は非ペプタイド性蛋白分解酵素阻害薬である。血液凝固・線溶系、カリクレイン-キニン系及び膵酵素に対する強力な阻害作用や抗血小板作用を有しており、急性膵炎、汎発生血管内血液凝固症(DIC)、出血性病変又は出血傾向を有する患者の血液体外循環時の灌流血液の凝固阻止の適応が承認されている。

【配合変化の種類】
【①混濁・沈殿】

フサンの成分であるナファモスタットはメシル酸とイオン結合しているが、メシル酸は塩交換しやすい性質を持っており、メシル酸に代わって他の陰イオンが結合した時に生成された溶解度の低い物質が、混濁・沈殿の原因である。たとえば、フサンを直接生理食塩液で溶解すると、生理食塩液中の塩素イオンとフサンの中のナファモスタットが結合し塩酸ナファモスタットが生成される。これは、メシル酸ナファモスタットに比べて溶解度が低いために混濁・沈殿が生じるというわけである。
ただし、予め注射用水や5%ブドウ糖で溶解すれば、ナファモスタットは希釈された状態で陰イオンと出会うため、混濁・沈殿を防ぐことができる。

【②力価低下】

ナファモスタットは、構造式中にエステル結合を持っており、pH8以上になると加水分解(力価低下)が進行する。ネオフィリン注・ホスミシン注・メロペン注等のアルカリ性薬剤との配合は禁忌である。しかし力価低下は経時的に進行するため、薬剤の接触時間が短い場合には問題とならない。したがって、輸液内に混合すると力価低下する組み合わせではあっても、同一ルートからの併流は可能である。

【③その他】

注射薬には、薬剤の酸化を防止し製剤の安定性を図る目的で、亜硫酸水素Na・ピロ亜硫酸Na等の亜硫酸塩が添加されている場合がある。しかし一方で、亜硫酸塩は配合薬の分解を促進する作用があり、この作用は亜硫酸塩の量が多いほど、またpHが高いほど顕著となる。
亜硫酸水素Na・ピロ亜硫酸Naが添加されている薬剤として、アミノ酸製剤、ダブルバック方式を採用しているPPN・TPN製(アミノ酸部分)、カテコールアミン(イノバン・ドブトレックス等)、ビタミンC、アミノグリコシド系抗生物質(ハベカシン・アミカシン等)、ステロイドホルモン剤(デカドロン・サクシゾン等)その他、アドナ、プリンペラン、ラジカット、強力ネオミノファーゲンC等がある。これらの薬剤とフサンを混合する場合は、注意が必要である。

最後に、注射用フサンは配合変化を起こしやすい薬剤であり、またフサンの濃度が高いほど起こりやすいため、高濃度で使用(DIC等)する場合には特に注意が必要である。

参考文献:月間薬事6月号  配合変化に注意 第5回 櫻井美由紀
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2008年7月 『ヒト化モノクローナル抗体 アバスチン注(ベバシズマブ)』

アバスチンは、世界初のヒトの血管内皮増殖因子(VEGF)に対するヒト化モノクローナル抗体である。2007年6月に発売され、当院でも患者限定で採用されている。

VEGFは、血管内皮細胞の細胞分裂を促進したり、血管透過性の亢進に関与するサイトカインで、正常な血管新生にも不可欠な調節因子であるが、一方で、種々の癌細胞でも発現亢進が認められている。癌細胞内では、VEGFが血管新生を促すことで栄養や酸素の供給を高め、癌細胞の増殖や転移に関与していると考えられている。

アバスチンは、VEGFと選択的に結合することにより、その生物活性を阻害することで抗癌作用を示す薬剤であり、この作用から「血管新生阻害剤」とされている。また、脈間構造を正常化、血管透過性を低下させ、腫瘍組織で亢進した間質圧を低減する。

【効能・効果】

治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌

【用法】

フッ化ピリミジン系薬剤を含む他の抗癌剤との併用により投与すること
(FOLFOX療法、IFL療法、5-FU/LV療法)

【一次治療における有用性(海外臨床試験)】
投与群 PFS中央値 生存期間中央値
FOLFOX4+プラセボ群 8.57
FOLFOX4+アバスチン群 9.40
IFL+プラセボ群 6.28 15.80
IFL+アバスチン群 10.58 20.37
5-FU/LV+プラセボ群 5.52 13.24
5-FU/LV+アバスチン群 9.17 16.56
PFS(無増悪生存期間)(単位:月)
【多くみられる副作用】

 ① 高血圧  約20~40%(化学療法だけの場合:約5~8%)
 ② 蛋白尿  約10~40%(化学療法だけの場合:約5~20%)
 ③ 粘膜出血  約20~50%
 ④ 白血球・好中球数減少  中等度以上の減少:37%(化学療法だけの場合:約30%)

【アバスチンに特徴的である重篤な副作用(発現時は投与中止)】

 1. 消化管穿孔
 2. 創傷治癒遅延
 3. 腫瘍関連出血(大腸癌で消化管出血、肺転移巣で肺出血、脳転移巣で脳出血)
 4. 血栓塞栓症(脳梗塞、心筋梗塞、深部静脈血栓症等)
 5. 高血圧脳症、高血圧性クリーゼ
 6. 可逆的後白質脳症症候群(痙攣発作、頭痛、精神状態変化、視覚障害等)
   *治療中、定期的な血液検査、定期的な血圧・尿蛋白の検査が必要である

参考:アバスチンインタビューフォーム、薬剤取り扱い説明書
   http//medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/200705/503171.html
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2008年6月 『セフトリアキソンナトリウム(商品名:ロセフィン)は
カルシウム含有製剤と一緒に投与してはいけない!』

① セフトリアキソンナトリウム(CTRX)の特徴

 MICからみた抗菌力は、大腸菌、肺炎桿菌、プロテウス・ミラビリス、エンテロバクター、シトロバクター、インドール陽性変形菌、セラチア、インフルエンザ菌等のグラム陽性・陰性菌に対してセファメジンやセフォチアムよりも優れている。適応は無いが緑膿菌等のブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌にもある程度の抗菌力を持つ。

 最近では、淋菌性の尿路感染症において耐性化が進んでいる事もあってセフォジジム、スペクチノマイシンと並んで当薬剤が推奨されている。

 構造式の特徴として、7位にaminothiazole基とmethoxyimino基を持つ事で各種β―ラクタマーゼに極めて安定であり、3位側鎖中にトリアジン環を導入した事で血中持続性が得られた。

 体内動態の特徴としては、本剤1g静注時のβ相での血中半減期は7.5~8時間とセフェム系抗生剤の中で最も長く、成人および小児において1日1回投与が認められている。蛋白結合率は85~95(%)、体内でほとんど代謝を受けず、尿中未変化体排泄率は6時間までに約30%、48時間までに約60%である。胆汁中への移行は良好でセフェム系の中では非常に稀な胆汁排泄型であるので、腎障害時でも投与量の変更を要しない。また、髄液への移行も良好である。

② 2007年6月の米国FDAからの警告要旨
  (日本では同年9月に安全性情報で警告)

 セフトリアキソンとカルシウム含有薬剤(輸液を含む)のとの配合変化により、肺や腎に結晶沈着が認められ、これを原因とする新生児の死亡例が米国で報告された。

 症例の大半は両剤の同時投与により発生しているが、理論的には析出反応は両剤の投与時間差が48時間以内の場合に起こる可能性がある。米国の報告では新生児のみであるが、物理化学的には両剤の相互作用は年齢に関係なく起こる可能性がある。禁忌とされていないが、どちらか一方を投与した時は48時間以上経過してから他方を使うべきである。また、関連性が否定出来ない胆嚢内沈殿物の報告もある。

③ 最近の海外文献情報

 妊娠による体内動態の変化する抗生物質の一つとしてセフトリアキソンがあり、消失速度定数の有意な低下が認められている。

参考文献:月間薬事3月号  配合変化に注意 第2回 阿南節子
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2008年5月 DIニュース 『PK/PDからみた抗菌薬の投与方法』


感染症の治療は速やかに起炎菌を推定し、抗菌薬化学療法を開始する事が感染症の病態からも、PK/PD(薬物動態学/薬力学)理論からも有効性を高める事が知られています(empiric therapy)。PKは薬物の体内での分布を、PDは抗菌薬の病原体に対する効果および生体組織に対する副作用として主に表現されますが、ここではPK/PDパラメーターからみた抗菌薬の投与方法を述べます。
1.濃度依存性抗菌薬
 高い治療効果をあげるには、最高血中濃度Cmaxを高くする必要があり、その為には投与間隔ではなく、投与量で調節する。安全域を逸脱しない範囲でCmax、或いはCmax/MIC比、AUC/MIC比が高くなる方法をとる。同時に、副作用軽減を目的にtrough値を十分低く設定する。例えば、殺菌的でPAE(MIC以下になっても菌の増殖抑制効果が持続する事)を示すアミノグリコシド系薬は、1日1回投与法が欧米で行われるようになっている。
 ・Cmax/ MICをパラメーターとするもの:アミノグリコシド系
 ・AUC/MICをパラメーターとするもの:フルオロキノロン系、アジスロマイシン、リネゾリド
2.時間依存性抗菌薬
 抗菌薬の効果は、MIC以上の薬物濃度に菌が接する時間の長さ(Time above MIC)によって左右されるので、1回投与量を増やすよりも1日の投与回数を増やすのが良い。trough値が低すぎる事は、Time above MICが短い事を意味するので、基準値以下にならないようにする。特に、β-ラクタム系薬ではMIC以上の血中濃度を1日の内で40%以上の時間を保つ必要がある。
 ・Time above MICをパラメーターとするもの:
  マクロライド系、グリコペプチド系、β-ラクタム系(カルバペネム系・セフェム系・ペニシリン系)
参考文献:奈良県病院薬剤師会会誌31号2007.6
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2008年4月 DIニュース 『乳がんの内分泌療法』

乳がん

わが国の乳がん罹患率は欧米に比較して低いとされていたが、生活様式の欧米化なにより罹患率が急増している。近年、比較的早期から全身に微小転移を起こしやすいという『乳がん=全身病』の概念から、薬物療法の重要性が増している。

内分泌療法

かつて、外科的に両側の卵巣を摘出したり、副腎や下垂体を摘出して女性ホルモンの分泌量を減らすことで乳がんの増殖を抑制することが行われた。

しかし現在では薬物療法によって女性ホルモンを抑制することが可能となり、外科的内分泌療法が行われることは皆無になっている。

最も古くからあるホルモン剤は、エストロゲンが腫瘍細胞と結合するのを妨げる働きのタモキシフェンで、閉経前の内分泌療法としては現在でもゴールデンスタンダードである。一方、閉経前と閉経後ではエストロゲン産生経路が異なるが、閉経後はエストロゲン合成酵素であるアロマターゼの働きによって脂肪組織からエストロゲンが産生される。内分泌感受性の閉経後乳がん患者では、アロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害剤の有用性が注目されている。



引用:月間薬事Vol.49 N0.2 (P41-46)
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2008年3月 DIニュース 『ブホルミンとメトホルミン』

近年、ビグアナイド系糖尿病薬であるメトホルミンは、複数の大規模臨床試験で安全性と有効性が再評価され、メタボリックシンドロームの発症抑制にも効果が期待できる薬剤として注目されています。当院もブホルミン(ジベトスBⓇ)に加え、メトホルミン(メルビンⓇ)が3ヶ月試用薬品として登録されました。

ーロッパでは中世から、湿地や低地に分布する多年草マメ科植物のフレンチライラックを、多尿や口渇などの糖尿病症状を緩和する作用がある薬草として用いてきた。後にその植物の抽出物であるグアニジンに血糖降下作用があると報告されるが、グアニジンには強い毒性があるため臨床応用されず、関連物質としてビグアナイド系の薬剤が開発され、現在使用できるのはメトホルミン(メルビンⓇ)とブホルミン(ジベトスBⓇ)である。

トホルミンは、グアニジンを二つ並べた骨格を有し2つのメチル基が修飾する。一方ブホルミンではブチル基が修飾する(図)。この側鎖の違いにより、ブホルミンはより脂質親和性が高くミトコンドリア膜に結合しやすく、メトホルミンはより結合しにくい性質を有する。また、ブホルミンは肝臓で代謝され、メトホルミンは腎臓から直接排泄される。

【グアニジン】
【メトホルミン】
【ブホルミン】

の構造式から、乳酸アシドーシスはメトホルミンの方が起こしにくいと考えられる。しかし、メトホルミンは胃腸障害の発現が0.1%~5%未満と高いため、消化器症状を訴える患者にはブホルミンが使用できる可能性がある。 なお、近年示されたメトホルミンの臨床試験の多くは欧米でのデータであり、欧米と国内では投与量が違うこと(欧米;2g以上/日、日本;750mg/日)を考えると、今後国内の臨床試験の結果が期待される。           

参考文献;薬局 2007,Vol.58,No.12 
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