悪性リンパ腫 QandA
Q.リンパ節はどんな働きをしているのですか
A.心臓から送り出された血液は全身にいきわたり、毛細血管と呼ばれる血管から液体成分(血漿)が周囲の組織にしみだしていき、栄養や水分を補給します。これらの液体の一部はリンパ液となってリンパ管を通って大静脈に合流します。
全身の組織を潤したリンパ液には、ウイルスや細菌などの病原体、死んだ細胞など人間にとって不都合なものも含まれています。
リンパ管に沿って多くのリンパ節があり、リンパ節にはリンパ球やマクロファージといった血液の細胞が大量に存在し、病原体を殺し異物を回収します。
風邪をひいてのどが赤く腫れたときや、虫歯になった時には、リンパ液中に多くの病原体や毒物が侵入しますので、それらを処理するためいつも以上の働きが必要となり、仲間を呼び寄せるとともに、自分を増やして対応します。
その結果リンパ節が大きくなり、普段は分からない首のリンパ節が触ってわかる程度、大きい場合は直径1.5cm程度にまでに腫れます。
Q.リンパ球はどこでどんな働きをしているのですか
A.リンパ球は骨髄中の造血幹細胞に由来する白血球の一種で、からだを病原体やがん細胞から守る「免疫」の中心的役割を果たす細胞です。
白血球ですので、血液の流れに乗って体中に分布しています。また、リンパ節には大量に集まっており、リンパ節でじっとしているものもいます。
病原体が入ってきたり、がん細胞が発生したりすると、リンパ球が病原体のいる場所やがん細胞が生まれたところに集まってきてそれらを退治します。
Q.悪性リンパ腫はどのような病気ですか
A.悪性リンパ腫とはリンパ球ががん化したものです。
リンパ節でがん化することが多いですが、リンパ節の外でがん化することも稀でありません。リンパ節でがん化した場合はリンパ節がはれますが、直径10cm以上になることも珍しくありません。リンパ節以外でがん化した際にはその場所でしこり(腫瘤)を作ります。
がん化しても多くの場合、リンパ流や血液の流れに乗って全身に広がる性格を持っていますので、見つかった時にはあちこちのリンパ節やリンパ節でない臓器に腫瘤を作っていることが多く、その場合最初にがん化した場所がどこなのかを推定することは困難です。
Q.悪性リンパ腫には多くの種類があると聞きました
A.リンパ球はその役割の違いからT細胞、B細胞、NK細胞の3種類に分けられます。それら3種類のリンパ球のいずれもがん化し得ます。
悪性リンパ腫の約7-8割はB細胞ががん化したもので、T細胞、NK細胞のがん化したリンパ腫は比較的稀です。B細胞はリンパ節で異物や病原体に触れることで盛んな細胞分裂を生じたのち抗体を作る形質細胞へと分化します。
悪性リンパ腫全体の約半分はリンパ節で盛んに分裂しているB細胞に由来します。病原体に触れる前のB細胞や、盛んに増殖したのち形質細胞に分化しつつあるB細胞もがん化することがあります。どの段階のB細胞ががん化したかによって悪性リンパ腫の性格は変化し、治療法にも違いが生じます。
T細胞は機能によりいくつかに分類されますが、それぞれがん化することがあり、なかには特徴的な症状を伴うものもあります。がん化した場所によって性格が変化することもあります。
NK細胞ががん化することは珍しいのですが、非常に特徴的な病状を示します。
このように、悪性リンパ腫といっても100種類あまりに分類され、研究が進むにつれて年々その種類が増えています。これらの分類は治療に役立てることを目的に作られており、正しく分類することは、適切な治療を受けるためにとても大事です。
Q.悪性リンパ腫の治療法を教えてください
A.抗がん剤治療(化学療法)を行います。
手術は正確な診断や治療による合併症を防ぐために行うことがありますが、手術だけで治療することはありません。放射線治療はリンパ腫が周囲に広がっていなかった時や、巨大腫瘤を作っていた時に化学療法と組み合わせて行うことはありますが、放射線治療だけを行うことは稀です。
化学療法の内訳はあとで述べさせていただきます。
Q.悪性リンパ腫でステージ4と言われました、助からないのでしょうか?
A.白血球のがんである悪性リンパ腫では、見つかった時にはすでに全身に広がっていて、ステージ4であることは珍しくありません。悪性リンパ腫では化学療法が中心ですので、ステージ4であっても抗がん剤が効けば長期生存、さらには治癒に至ることは十分可能です。
Q.悪性リンパ腫で治療前必要な検査にどんなものがありますか
A.まずは正確な診断、分類を行うことです。そのためにはリンパ節やリンパ腫のしこりを取る(生検と呼びます)必要があります。
首やわきの下、脚の付け根(鼠径部)など比較的取りやすい場所にあれば外科や耳鼻科の先生にお願いして生検していただきますが、肺やお腹の奥にしかない場合は開胸もしくは開腹生検が必要なこともあります。生検した検体を用いて、リンパ腫に精通した病理医がリンパ腫の分類をします。
次いで重要なのは病気の広がりの程度を知ることです。そのためにはFDG-PET-CTという検査がとても有効です。悪性リンパ腫の広がりを知ることで、放射線治療の適応の有無を判断できるのみならず、化学療法後に生じる有害事象を推測することができます。
しかし、もっとも重要なことは、化学療法前後の画像を比較することで、治療の効果判定が正確にできることです。
Q.悪性リンパ腫の化学療法を教えてください
A.悪性リンパ腫は多くの病型に分かれ、それぞれ微妙に治療法、治療方針が違います。頻度の高いびまん性大細胞B細胞リンパ腫と、濾胞性リンパ腫の治療法を記します。
びまん性大細胞B細胞リンパ腫は比較的進行が早く、無治療では多くの場合1年以内に死に至ります。したがって、本疾患に対する治療は治癒を目的としたものになります。最近ではさらにいくつかに分類され、ここに記載した治療と異なる治療が選択される場合がありますが、多くの場合リツキシマブ(R)併用CHOP療法(R-CHOP療法)もしくはPola-R-CHP療法がおこなわれます。
Cはシクロフォスファミド、Hはドキソルビシン、Oはビンクリスチン、Pはプレドニゾロン、Polaはポラヅズマブベドチンの略語です。C、H、Oは殺細胞性抗がん剤であり白血球減少、脱毛、末しょう神経障害といった旧来の抗がん剤に付きまとう有害事象があります。Rは抗体製剤ですが、完全にヒト型化されていないこともあり、点滴に伴ってアレルギー反応を起こしやすい薬です。
Polaは抗体に抗がん剤を結合したもので、抗がん剤による末しょう神経障害がみられます。Pは副腎皮質ステロイドであり、高血糖、高血圧、不眠などの有害事象があります。
R-CHOPもしくはPola-R-CHPを3週間ごとに6コースおこないますが、80歳以上の高齢者に対してはCHOPの量を半分ほどに減量します。80歳以下でも6コース完遂するためにはある程度の減量が必要なことがあります。これらの治療でがんが消えない、またはいったん消えたリンパ腫が再発した場合には救援療法を行います。救援療法は患者さんの年齢などにより様々なものがあり書ききれません。
濾胞性リンパ腫は進行が遅く、腫瘍が大きくなったり小さくなったりを繰り返すため、首やわきの下のしこりを偶然自覚して診断に至った場合など、数年間無治療で経過観察することもあります。しかし、下肢の浮腫をきっかけとして見つかった時などにはすでにお腹に巨大な腫瘤を作っていることもあり、その際には速やかな治療が必要となります。
濾胞性リンパ腫は抗がん剤で完治させることは困難であり、治療目的は腫瘍を小さくした状態を長期間持続させることです。かつては前述のR-CHOPが第一選択でしたが、最近ではObi-Bendaを行うことが多くなりました。Obiはオビヌツズマブで、リツキシマブを改良したものです。濾胞性リンパ腫においてはRよりObiの効果が高いことが分かっています(びまん性大細胞B細胞リンパ腫ではObiの効果はRと同じでした)。
Bendaはベンダムスチンで、長期に及ぶ免疫力低下という有害事象がありますが、脱毛を起こさないのが特徴です。Obi-Bendaは4週間隔で4-6サイクル行います。その後Obiを8週間ごとに2年間投与することで再発を遅らせる試みもなされています。R-CHOP, Obi-Bendaいずれの治療を行っても多くの場合5-10年後に病気の再燃がみられます。ただし、再燃後も進行速度は遅く、自覚症状がみられ救援療法の適応となるまでにはさらに数年を要します。
現在救援療法として複数の治療法がありますし、さらに多くの薬剤の開発が進んでいます。今から5-10年後には多くの治療選択肢が提供できると思われます。
濾胞性リンパ腫は治らない病気ではありますが、数年ごとに治療を行なうことで長期間自覚症状なく付き合っていける病気になりました。