さわやか高の原健康情報

2023.10.01

高齢者に多い大腿骨骨折について

高齢者の大腿骨近位部骨折は命に関わる骨折です!

高齢者の大腿骨近位部(太ももの付け根)骨折は、命に関わる骨折です!

世界保健機関(WHO)では、65歳以上を高齢者と定めます。日本の総人口に対する高齢者割合は直近の調査で世界一の29.1%にも及び、今後も増加します。

日本の超高齢社会化に伴い、太ももの付け根の骨折は、現在では年間約25万人発生し、年々増加し2040年には、現在の奈良市人口に近い32万人にもなると予測されます。

男女比率は、女性が男性の約4倍で、女性は閉経により男性より骨粗鬆症になりやすいためです。太ももの付け根の骨折の原因は、約8割が立った高さからの転倒で、約7割が屋内で発生し、転倒10~20回に1回の割合で何らかの骨折が発生します。

太ももの付け根の骨折は、ほとんどが頚部か転子部に発生し、75歳未満では頚部に多く、75歳以上では転子部に多く発生します。日本では、約95%の人が手術を受け手術方法は、転子部骨折と骨折部にズレがない頚部骨折は、ネジ釘を用いて骨折部を固定します。

骨折部にズレがある頚部骨折は、ネジ釘で骨折部を固定しても、骨折部癒合が期待できず人工の骨頭に置換します。しかし、適切な手術治療が行われても約半数の人は歩行能力が低下します。

大腿骨骨折の危険性

また、手術後約2割の人に別の病気が発生する(合併症)ことがあります。

具体的には、時間や場所が急にわからなくなる意識の混乱(せん妄)や、肺炎・尿路感染・心不全などです。また、手術後に死亡することもあり、医学統計的に術後1カ月以内の死亡率は、平均約5%で、術後1年以内の死亡率は、平均約20%です。

太ももの付け根の骨折後に死亡する危険性が高い条件として、男性・高齢者・認知症・骨折前歩けなかった人・心臓の持病・血液の中のたんぱく質(アルブミン)が少ない・痩せている人・骨折手術を受けない人という研究結果が発表されています。

また、太ももの付け根の骨折を起こした人は、その骨折がない人と比べて、死亡率は約3~7倍高いという驚くべき研究結果もあります。

さらに、太ももの付け根の骨折発生から5年後に生きている確率は、80歳以上では、約25%しかなく、この数字は、肺がん・子宮がん・大腸がんの進行がんのそれに匹敵する悪さです。ところが、脚の骨折で済んでよかったと言う人はいますが、心筋梗塞や脳梗塞で済んでよかったと言う人は絶対にいません。

まだまだ、世間の皆様には、高齢者の太ももの付け根の骨折は、命に関わる骨折であるという認識がないように感じます。

近年、啓発のため太ももの付け根の骨折を“骨卒中”と呼ぶこともあります。絶対に避けたい骨折と言えます。

骨折は骨折を生む。骨折は一度起こればまた起こる!

骨は新陳代謝により、たえず生まれ変わっています。古くなった骨を酸で溶かす細胞が骨を吸収し、新たに別の細胞が骨を造ります。

骨粗鬆症は、その新陳代謝のバランスがくずれ骨密度が低下し骨折の危険性が全身性に高まりますが、症状が現れにくく年齢とともに知らぬ間に忍び寄り、いつの間にか進行する沈黙の病気です。

40歳代になったら定期的な骨粗鬆症検診をお勧めします。転倒し不幸にも骨折して、初めて自分が骨粗鬆症だったと気づく人も多く見受けます。 

骨粗鬆症による骨折は連鎖を起こすことが多く、太ももの付け根の骨折を起こすと、反対側の太ももの付
け根の骨折を起こす危険性が約4倍も高まり、1年以内の発生が多いこともわかっています。

また、太ももの付け根は左右両側とも骨折すると死亡率が高くなります。したがって、太ももの付け根の骨折は、生活の質(QOL)を低下させ、寝たきりや死に至る危険性を高めるため、薬による骨粗鬆症治療とデイサービスや訪問でのリハビリで転倒予防対策が重要です。

特に、薬による骨粗鬆症治療は死亡率を低下させることがわかっています。とは言え、太ももの付け根の
骨折を起こした後でも、薬による骨粗鬆症治療を受けていない人が多いことが問題になっています。

1つ目の骨折が起こるのを防ぎ、もし起きてしまっても、それを最後の骨折にして連鎖を断ち切ることが重要です。

太ももの付け根の骨折治療には多職種(医師・看護師・理学作業療法士・言語聴覚士・薬剤師・栄養士・
医療社会福祉士など)の関わりが重要であり、またその有用性が多くの研究で証明されています。

当院でも多職種がチームとなり密に連携して、安心・安全な質の高い骨折治療を提供してまいります。

高の原中央病院 副院長 整形外科部長
門田 哲也